児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

おもしろ落語

「おもしろ古典落語」の118回目は、『死(し)ぬなら今(いま)』というお笑いの一席をお楽しみください。

世の中にはいろいろな人がいますが、出すのは舌を出すのもいや、もらうのは犬のクソでもありがたくいただくという人がいました。そんなものもらってどうするのかというと、持って帰って植木のこやしにするそうで……これなんかは、町がきれいになってよさそうなものですが、仲間うちではあまり評判がよくありません。

そんなケチの代表格のような「しわいやのケチ兵衛」という男がおりました。爪に灯をともすようにして金を貯めこんできましたが、いよいよ年貢の納め時、せがれを枕元に呼びました。「寿命というものはどうすることもできない。で、死ぬ前におまえにいっておきたいことがある。わしは、一代で財産を築いてきたが、ずいぶんひどいこともやってきた。人さまを泣かせるようなことも、人にうらみを買うようなこともな。だから、死んだら、地獄に落とされるのは間違いない。そこで、おまえに一つ頼みがある」「おとっつぁんのおっしゃることなら、どんなことでも…」「そうか。どうだろう、棺桶ん中に三百両を小判で入れてもらいたい。地獄の沙汰も金しだいてぇから、金をうまく使えば、極楽へ行けるかもしれないからな」「うちの財産からいえば、三百両など、なんでもないことじゃありませんか」「ありがとう、安心したよ」といいますと、ケチ兵衛さん、気がゆるんだせいか、そのままコロッと息を引き取ってしまいました。

こうして、葬式がはじまりまして、ケチ兵衛さんをおさめた棺桶の中に、むすこが約束の三百両の小判を入れていますと、これを見た親類のおじさんが「いくら遺言だからといって、天下のお宝を、墓の中へ入れるなんてばかなことをしてはいけない」といいます。「でも遺言ですから」「いいかい、おやじはホンモノの小判を入れろといったわけじゃなかろう。ほら、芝居の小道具に使う小判があるだろう。あれだって、ちょっと見には、ホンモノと見分けがつかない。よし、知り合いの芝居の道具方に頼んであげよう」というわけで、ホンモノの小判と、譲ってもらった大道具のニセモノ小判と、そっくり入れ替えてしまいました。

こちらは死んだケチ兵衛。いつの間にか買収資金がニセ金にかわっいるともつゆ知らず、エンマ大王の前によびだされます。浄玻璃(じょうはり)の鏡に、この世での悪事がこれでもか、これでもかと映しだされます。「うーん、じつにけしからん奴だ」ただでさえ怖そうなエンマ大王が、もっと恐ろしい顔になったので、ケチ兵衛は、これはいけないと、そっと小判百両をエンマ大王のたもとに入れました。その重みで大王の体がグラリ。とたんに、やさしい顔になって「あー、しかしながらぁ、一代においてこれほどの財産をなすというのも、そちの働き、あっぱれである」というのを聞いて、鬼どもがぶつくさ不満をいいだしました。これはあぶないとケチ兵衛、残った小判を、赤鬼やら青鬼やら、みんなにまきちらしました。すると、ありがたいもので、ケチ兵衛は、極楽へスーッといってしまいました。

ケチ兵衛のまいたワイロで、地獄は時ならぬ好景気。エンマ大王をはじめ、赤鬼も青鬼も仕事などやめて、毎日朝から晩まで、飲めや歌えの大騒ぎです。そのうち、小判が回り回って極楽へ入って来ました。極楽の大将が、役人たちの前でこういいました。「この小判は、どこからまいった」「地獄からです」「なに? けしからん。かようなニセモノを取り締まるのが地獄の役目ではないか。よいか、すぐに地獄の者どもを召しとってしまえ!」ということになり、極楽から、貨幣偽造および収賄容疑で逮捕状が出され、捕り手一隊が地獄のエンマ庁を襲うと、エンマ大王以下、赤鬼青鬼、馬頭牛頭、見る目嗅ぐ鼻、冥界十王、正塚(しょうづか)の婆さんまで残らずひっくくって、牢屋へ入れてしまいました。

だから、「死ぬなら今」


「5月24日にあった主なできごと」

1409年 李成桂死去…高麗末の武官で、李氏朝鮮という王朝を開き、朝鮮の基礎を築いた李成桂が亡くなりました。

1543年 コペルニクス死去…当時主流だった地球中心説(天動説)をくつがえし、太陽中心説(地動説)を唱えたポーランド出身の天文学者コペルニクスが亡くなりました。

1949年 満年齢の採用…「年齢の唱え方に関する法律」が公布され、従来の「数え年」から、「満年齢」に変わりました。数え年は、生まれた年を1歳とし、新年をむかえるたびにひとつ歳をとる数え方に対し、満年齢は、生まれたときは0歳、誕生日がくると1歳を加える数え方です。

「おもしろ古典落語」の117回目は、『松引(まつひ)き』というお笑いの一席をお楽しみください。

ある江戸屋敷に、殿さまがそそっかしくて、家老の三太夫というのが殿さまに輪をかけてそそっかしいというのがありました。「同類、相求む」といいますが、この三太夫という人が、殿さまの大のお気に入りで、いつも側にいます。

「これ、三太夫」「ははっ」「ほかでもないが、この庭の築山のわきにある赤松じゃが、だいぶ繁って月見のじゃまになっていかん。泉水のそばに引きたいが、どうであろうか」「おそれながら、あれはご先代さまご秘蔵の松でございます。あれを引きまして、もしも枯れるようなことがありますと、ご先代さまを枯らすようなものではないかと心得ます」といさめますが、殿さまは、いま屋敷に入っている植木屋に直接聞いてみたいと、いいはります。

そこに呼ばれたのが代表格の八五郎。「おお、そちが八五郎か。苦しゅうない、前へ出よ」「へぇっ」「あの庭の築山のわきにある松を、泉水のそばに引きたいが、引いて枯れるか枯れぬか、そちの考えを申せ」八五郎が答えようとすると、三太夫があわてて、「こりゃ八五郎、じかに申し上げるはおそれ多い、手前がとりついでつかわす」「それにはおよばん。じかに申せ」「ははっ、これ八五郎。ていねいに申し上げろ。よいか、『まず言葉の頭には [お] の字をつけ、終わりには [たてまつる] をつければ、自然にていねいになる」「[お]をつけて、たてまつりゃいいんですね。へぇ、お申し上げたてまつります。お築山のお松さまを、お泉水さまのおそばへ、お引きたてまつりまして、枯れるか枯れぬかといことでございますが、そいつはそのう、うまくお松さまを、手前どもでお掘りたてまつりまして、お引きたてまつれば、お枯れあそばす気づかいは、ござりたてまつりません。恐惶謹言(きょうこうきんげん)、お稲荷さんでござんす」「なんだか、よくわからんな。八五郎とやら、友だちに語るように、えんりょなくもうしてみよ」

「ありがてぇ、じゃ、たてまつりぬきで、ざっくばらんにやっつけます」「これ、八五郎、なんと申す」「三太夫、口だしいたすな」「へい、じつは、あの松でござんすが、こっちも商売だ。動かして枯らすようなこたぁいたしません。ひと月も前から、油っかすの五、六升を入れまして、小太いところところを、するめで巻きつけて、それで引いていきゃ、だいじょうぶ、けっして枯らすようなことはございません」「そうか、ようわかった」と殿さまは大喜びで、植木屋たちに酒をふるまいました。

三太夫は、にが虫をかみつぶしたように、このありさまをながめていましたが、お屋敷内の住まいから、急ぎのおむかえがまいりました。「急な用向きというから、もどったが、なにごとだ」「お国おもてから飛脚で、ご書面がとどきました」「…手紙とはこれか、おかしいな、なにも書いてないぞ」「だんなさま、そりゃ裏で」「道理でわからんと思った。なになに、『お国表において、殿さまの姉上さまご死去あそばされ……』こりゃ、一大事、すぐに殿さまへお知らせせねば」とあわてて御前へ。

「なに? 姉上ご死去? 知らぬこととはいいながら、酒宴など催して済まぬことをいたした。余はすぐさま、喪に服すぞ。して、ご死去はいつなんどきであったな」「はっ?……とり急ぎましたので、そこまで読まずに、あわてて出てまいりました」「そこつ者めが。すぐ見てまいれ」「ははっ、しばしお待ちを」というわけで、そそっかしい人があわてて家にとんぼがえりしますと、書状が自分の懐に入っているのも気がつきません。やっと落ち着いて読みなおすと「……お国表において、ご貴殿姉上さま……?」自分の姉が死んだのを殿と読み間違えたのでした。

「もはやいたしかたない。この上は、いさぎよく切腹して、おわびするほかあるまい」「旦那さま、あわててご切腹あそばして、犬死になるようなことがあってはいけません。あわてていたのでまちがいましたと、殿さまにほんとうのことを申し上げて、その上で、ご切腹なり、お手討ちとかになるのなら、いたしかたございません。それからでも遅くはなかろうと存じます」家来に説得されて、しおしおと、御前へまかり出ました。

「だまれ、だまれ! いかにそこつとは申せ、貴殿と殿を読み違えて相すむと思うか」「とりかえしのつかぬことをいたしました。この上はお手討ちなり切腹なり、おおせつけられまするよう」「手討ちにいたすも刀のけがれじゃ、切腹を申しつける」「ははぁ、ありがたき幸せ」三太夫は、すっかり覚悟をきめ、あわや腹を切ろうとすると、「ああ、三太夫、待て、待て。切腹には及ばんぞ」「はっ?」

「よく考えたら、余に姉はなかった」


「5月15日にあった主なできごと」

1932年 5・15事件…海軍の若い将校や右翼の若者たちが、政党や財閥をたおし、軍を中心にした国家権力の強い国をうちたてることをくわだて、首相官邸や警視庁などを襲撃、犬養毅首相を射殺する事件が起こりました。この惨劇により、14年間続いた政党内閣は断絶し、わが国はファッシズムへの道をまっしぐらに進むことになります。

1972年 沖縄本土復帰…第2次世界大戦後アメリカに占領されていた沖縄が、26年ぶりに返還され、沖縄県として日本に復帰しました。

「おもしろ古典落語」の116回目は、『無精床(ぶしょうどこ)』というお笑いの一席をお楽しみください。

むかし、「無精床」とあだ名をされた床屋がございました。ぶあいそうで、ものぐさな親方なもんで、いつも店はガラガラ。何も知らず、すいてるからと飛びこんできた不運な客がありました。「こんちは、親方、こんちは」「うるせぇな、こんちはなんて、いっぺんいゃぁわかるじゃあねぇか。なんの用だ」「すぐやってもらいてぇんだが…」「やるって、なにを?」「頭をこさえてもらいてぇ」「うちは人形作りじゃねぇ」「そうじゃねぇ、つまり、髪を結い直して、いい男にしてもらいてぇんだ」「そりゃだめだ。髪を結いなおすほうは商売だからやるけど、その顔は、どんなにこねまわしたって、よくはならねぇ」「なんだい、口が悪いな。まぁいいや、とにかく髪を結ってもらいてぇんですがね、やっていただけますか?」「おまえさん、客じゃねぇのか? 銭を払うんだろ?」「そりゃ払うよ」「だったら、よけいなことをいいなさんな。だまって入ってきて座れば、こっちは仕事にかかるってもんだ。それを、頭をこさえろの、いい男にしろのってむだ口をたたくからいけねぇんだ。むかしっから、おしゃべりにろくなもんがいねぇっていうだろ」「なんだい、まるで叱言(こごと)いわれにきたようなもんだ。すぐやってもらえますね」「見たらわかるだろ。ほかに待ってる客がいねぇんだから、いやでもおまえさんの頭にとっかかるんだ。あたしも商売だからね」

「じゃあ、さっそくやってもらうとして、まげはこのとおりに結ってもらいてぇんだ」「そりゃあ無理だ。このとおりってわけにゃあいかねぇ」「だめかい?」「結い直すからにゃ、どうしたってきれいになっちまう」「あたりめぇだよ、つまりこういう形に結ってくれっていうんだよ」「そんなことは素人がいちいち指図しなくても、こっちに任せとけばいいんだ。さぁ、始めるから、頭をこっちへよこしな…うーん、こりゃ、頭の手入れがわりぃな。こんなんじゃ、女にゃもてねぇ」「大きなお世話だ。親方、そこに沸いてるやかん、それ、ちょっくら取ってくんねぇ」「やかんが沸いてる? バカいうもんじゃねぇ。やかんが沸いたりするか。やかんの中の水が沸いてんだ。やかんが沸くわけがねぇ」「うっかり口もきけねぇな。じゃぁ、そのやかんを取ってくんねぇ」「弁当でも食うのか?」「弁当持って床屋へ来るやつがあるかい。頭をしめすんだよ」

「頭を湯でしめす? そりゃあいけねぇ。いいか、昔から『頭寒足熱』といってな、頭は冷やしとかなきゃいけねぇ。水で冷やしな」「水で?」「そうだ。おまえさんの前にあるだろ」「水が? おれの前の水っていったら、この桶の水かい?」「そうだ」「汚ねぇじゃぁねぇか」「ああ」「うけあってちゃいけねぇな、ずいぶん古そうだぜ」「うん、かなり古いな」「いつ、くんだんだい?」「別にくんだわけじゃねぇ」「くんだんじゃなけりゃあ、いったいどうしたんだい?」「屋根がもるもんだから、ひとりでに雨水がたまったんだ」「なんだよ、雨もりか。おぃおぃ、中で赤いものがチラチラしてるの、ボウフラじゃぁねぇか」「あぁ、ボウフラもだいぶふえたなぁ。こないだオタマジャクシがいたんだが、みんな脚が生えて、跳んでっちまった」「そこに寝てる小僧をたたきき起こして、水くみにやっとくれよ」「そりゃあ困る。なにしろこいつぁ、ただでさえ大っ食らいでなぁ、水くみなんて力仕事なんぞさせた日にゃぁ、どのくれぇ食うか底が知れやしねぇ。おまえさん、そんなに新しい水が欲しいかい?」「そりゃそうだ」「じゃぁ、そこんとこにある手桶を持って、この先一丁ばかりいったところにある豆腐屋の水を分けてもらいな。そこの水はいい水だから、そいつをくんで、頭をしめすといいや」「バカいうんじゃないよ。だれが頭をしめすのに、一丁も先に水くみに行くってぇんだ」

「そんならだまってその水でがまんしな」「だって、ボウフラがわいてるじゃぁねぇか」「大丈夫だよ。うちのボウフラはたちがいいから、食いついたりしねぇ」「そりゃぁ食いつきゃしねぇだろうけど、気味がわりぃよ」「その点は心配すんな。そこのひしゃくで桶のふちを二、三べん、コンコンってたたいてみな。ボウフラがすーっと沈むだろ。そのすきに上のほうの水をさっとすくうんだ」「へっ、おどろいたね。ボウフラのすきをうかがうのかい。じゃ、まぁ、やってみようか。このひしゃくでコンコン…、なるほど、すっと沈んだね、感心なもんだ」「そうだろ。そこまで仕込むにゃ、骨がおれた」「ウソつきやがれ。ありゃ、沈んでたボウフラが上がってきたぜ。もういちどたたいてみるか。コンコン…あ、下がったね、おや、また上がってきた。コンコン…、また沈んだ。へへっ、こりぁ、おもしれぇ」「おぃおぃ、ボウフラと遊んでちゃいけねぇよ。ボウフラが沈んだところで水をとすくって、そいつで頭をしめすんだ」「そうだった、頭をしめすんだった。ひしゃくでコンコン、沈んだところをすっ、あぁ、すくえた。なんだ、この水、こりゃくせぇや! うわぁ、なんかヌルヌルしてるよ。お、親方、早いとこ、やっちまってくんねぇ」

「しめしたらそこへ腰をかけるんだ……おいおい、奴(やっこ)、起きろ、仕事だ。しょうがねぇ小僧だなぁ、のべつ寝てやがる。おい、おい、この奴、寝ぼけやがって膳箱だしてやがる。飯じゃねぇ、客だ。たまにゃぁ生きものをやってみろ!」「おぃ、おぃ親方、いまなんてった? 『生きものをやってみろ』ってぇのは? 頭は親方がやってくれるんだろ?」「あぁ、あっしもやるけどね、下剃りだけは小僧にやらせてくんな。なんせ、うちへ奉公に来て3年になるんだが、まだ客の頭をあたったことがない。カミソリもってやかんの尻をガリガリやってるだけじゃ稽古にならねぇ。やっぱり本物の頭じゃなくっちゃ腕はあがらねぇんだ。そこいくと、おめぇさんの頭は、大ぶりだから、稽古には持ってこいってぇもんだ」「おかしなことをいうな、稽古頭だなんて。おぃおぃ、大丈夫かい小僧さん、おめぇ、またおっそろしく高い足駄をはいてんなぁ。これじゃなきゃ背が届かない? どうでもいいけど、転ぶんじゃないよ。なにしろ刃物を持ってるんだからな。うまくやっとくれよ、いいかい、痛くねぇようにだよ……そうだ、うん、うまい、うまいよ。こりゃぁいいや、ちっとも痛くねぇ。親方がうるさいだけあって、仕事はしっかりしてらぁ。これじゃ、やってるかやってねぇか、わかんねぇくれぇだ。なに? まだやってない? どうりで痛くねぇわけだ。じゃぁ、始める? いてぇ、いてて、痛いよ。おい、カミソリでやってんだろうな? まさか、毛抜きで引っこ抜いちゃぁいめぇな、お、おめぇ、いてっ、もうちょっと痛くねぇようにしろ!」

「このバカやろう、しっかりやらなきゃダメじゃねぇか。ぶるぶる震えやがって。いいか、客の頭だと思うから震えるんだ。いつもやってるやかんの尻だと思って、思いきってやれ!」「お、親方、どうにも痛くってやりきれねぇ、頼むから代わってくれ!」「ちぇっ、しょうがねぇなぁ、こっちへかみそりを貸してみろ、あれっ? おめぇ、こんなもんでやってたのか。こりゃぁあがっちまったカミソリじゃぁねぇか。さっきこれで足駄の歯を削ってたろ」「おぃおぃ、ひでぇことをするじゃぁねぇか。足駄の歯を削ったやつで頭をやられた日にゃぁ、たまったもんじゃぁねぇ」「お客さん、小僧のやったことだ。大人げねぇことは、いいっこなしだ。ま、気を悪くしねぇで、勘弁してやってくんねぇ。おい、奴! よく見てろ! 仕事ってぇものは気を大きく持ってやらなくっちゃぁいけねぇ。いいか、他人の頭だ。少しくれぇ切ったって痛かねぇってぇ気持ちでやれ、いいか!」「あいたたた、いてぇよ、なにもそんなにガリガリやらなくったって。もっとお手やわらかにたのむよ」

「わかった、わかった。もうちょっとの辛抱だ。おい、奴、おめぇどこ見てるんだ。しっかり、こっちを見てろ。こうやってかみそりを寝かして、こう、すーっと。おめぇ、いったいどこ見てるんだ。なにっ? おもてに角兵衛獅子が来た? なにが来たっていいじゃぁねぇか。こっちを見ろ、こっちを。おれの手元だよ、手元。まだ表ぇ見てやがる。そっちじゃぁねぇ」「いてててて、ああ、痛てぇじゃないか。もう止めだ、止めたよ。親方、小僧に叱言をいいながら、なんでおれの頭を殴るんだ。ひでぇじゃぁねぇか」「いゃぁ、すまねぇ、どうも、あのやろう、いくらいっても表ばかり見てやがるもんでね、張り倒してやろうと思ったんだが、手が届かねぇんで、つい、近間で間にあわしちまった」「じょうだんいうなよ、まにあわせでぶん殴られてたまるか。おぃおぃ、あれ? 血だ、親方、血が流れてきたぜ!」「おめぇ、頭ぁ切ったな、どれどれ、血が流れてる? おお、やった、やっちまった」「やったじゃねぇや。情けねぇことになっちまった、医者呼んでくれぇ~」

「なぁに、安心しな。縫うほどのこたぁねぇ」


「4月26日にあった主なできごと」

BC479年 孔子死去…古代中国の思想家で、「仁」を重んじる政治を唱えたくさんの弟子を育てた孔子が、亡くなったとされる日です。孔子の教えは、弟子たちの手で『論語』としてまとめられ、孔子を始祖とする思想・信仰の体系は「儒教」と呼ばれ、江戸時代には、もっとも大切な学問とされていました。

1863年 牧野富太郎誕生…明治・大正・昭和の3代にわたり、植物採集や植物分類などの研究に打ちこみ、民間の大植物学者となった牧野富太郎が生れました。

1986年 チェルノブイリ原発事故…ソ連(現・ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で、後に決められた国際原子力評価尺度において最悪のレベル7に分類された爆発事故がおこり、世界を震撼させました。ソ連政府は2日後にようやく事故を発表、のちに事故は運転員の規則違反と操作ミスが主な原因で、原子炉の設計にもミスがあったともいわれています。

「おもしろ古典落語」の115回目は、『つづら泥(どろ)』というお笑いの一席をお楽しみください。

「おーい、与太。つづらなんぞしょって、どこへ行こうってんだ」「あー、兄ぃ、なにやってもうまくいかねぇから、心いれかえて、泥棒にでもなろうとおもってるんだ」「ばかっ、そんなでけぇ声だして、泥棒なんていうやつがあるか。それに、泥棒なんて、あんまりいい考えじゃねぇぞ」「いやぁ、人の者を盗むんじゃなくて、自分のものを盗むんだから、べつに悪いことじゃねぇだろ?」「へんなことをいうな、どういうことだ」「ほら、あの裏通りに、伊勢屋って質屋があるだろ。あそこの蔵に、おれの着物なんぞがどっさりへぇってるんだ。あすこのおやじが因業(いんごう)で、いくら出してくれってたのんでも、出してくんねぇ」「そんなこたぁねぇだろ、元金と利息はちゃんと持ってったのか」「そんなもの、持ってかねぇ」「ばかったれ、質屋ってのは、お客さまに金を貸すかわりに、質ぐさとして品物をあずかるんだ。金を返さなきゃ、品物を返してくれるわけねぇ」「そうかねぇ、だからたちがよくねぇ」「ほんとにおめぇってやつは、貧乏な上に、間がぬけてんだから、かみさんが苦労するわけだ」「だから、かみさんを喜ばせようと、こうやって、つづらをしょって、とりかえしにいくとこだ」「でもな、あそこの戸じまりはきびしいぞ。どうやってへぇるんだ?」「あれっ、しまりなんかしてあんのか?」「あたりめぇだ。泥棒がへぇるだろ」「おれんちなんか、しまりなんかしてねぇけど、泥棒なんかへぇらねぇ」「おめぇんちには、とられるものなんか、なんにもねぇだろ。……しかしなんだな、与太」「なんだい、兄ぃ、きゅうに声が小さくなったな」

「大きな声じゃいえねぇけど、じつはおれもあの質屋に預けものがあるんだ。おめぇがいくんなら、いっしょにいこう」「そりゃありがてぇ、ふたりのほうがにぎやかでいい」「泥棒に入るのに、にぎやかなのを喜ぶやつがあるか」「でも、兄ぃ、どうやってへぇるんだ?」「いい考えを思いついた。こうしよう」「それがいい」「まだなにもいってねぇ」「どうりできこえねぇ」「くだらねぇこというな。いいか、与太、そのつづらをな、伊勢屋のおもてにおいて、大きな声でどなるんだ」「あけまして、おめでとう!」「こらっ、いま時分、年始にいくやつがあるか。いいか、『伊勢屋さん、伊勢屋さん、お宅に泥棒が入りましたよ』っていうんだ。するてぇと、店のもんが、出てくるだろう。出てくる前に、おめえとおれが、つづらの中に隠れるんだ」「かくれんぼするのか?」「よけいなこといわずに聞け。店の連中が『おや、ここにつづらが落ちている。持っていかれなくてよかった。早く家へしまえ』って、つづらを店ん中へ運びこむだろ」「なるほど」「だから、夜中になって、おれとおめぇの品物をとりかえして、このつづらの中へ入れて、戸をあけて出てくるんだ」「あっ、そうか。じゃぁ、泥棒に入るんじゃなくて、入れてもらうのか。こりゃ、かんたんだ」こう相談がまとまると、ふたりは、伊勢屋をめざし、暗くなりはじめた道を急ぎました。

やがて伊勢屋では、泥棒が入ったという声に、店じゅう大騒ぎ。みんな表へ飛び出してきましたが、いちばんしっかりしているのは、やはり伊勢屋のご主人です。「番頭さん、よく調べなさいよ、蔵はだいじょうぶか、……なんともない? そりゃよかった。人さまの品物をお預かりしているのだから、まちがいがあっちゃいけませんよ。なにか、ほかに変わったことはないかい?」「旦那さま、あそこに大きなつづらが置いてございますが…」「大きなつづらだな。こりゃ、お客さんからの預かりものかい?」「いいえ」「ああ、そうか、泥棒がどっかから盗んできたのだろう。さわがれたんで置いてったにちがいない。どこかにしるしはないかい?」「ありました。丸に柏の紋がついて、大与としてあります」「大与……そうだ、そいつは、大工の与太郎のものだ。まぬけな泥棒がいたもんだ。与太郎の家に入って、なにも盗むものがないから、こんなつづらをとってきたのだろう。うちの店の前にきたときだれかに見つかって、あわてて置いて、逃げちまったんだな」「どうしましょう」「こんなものでも、与太郎にとっちゃ、大事なものだろう。小僧たちを連れて、与太郎の家にとどけなさい」伊勢屋の番頭は、主人にいわれた通り小僧をふたりつれて、重たいつづらをやっこらかついで、与太郎の家に届け、おかみさんに渡して帰りました。いっぽう、つづらの中のふたりは、ゆられてぐっすり眠ったために、与太郎の家へ連れてこられたなんて気づきません。

「おい、与太」「グウ、グウ」「このやろう、いびきで返事してやがる。おい、起きろ」「いてぇな、横っ腹けとばさないでおくれよ」「おい、ねぼけるな、ここはつづらん中だ」「あっ、そうか」「しっ、静かにしろ。うまくいったぞ。夜もだいぶふけたようだから、そろそろ仕事にかかろう」「仕事? なんだっけ」「泥棒の仕事だろ」「そうだ、泥棒だ」「しっ、でかい声出すな。ここは伊勢屋の中だぞ。つづらのふたを、そーっと開けて……どうだ、だれもいねぇか?」「うん、こりゃきたねぇ家だな。兄ぃなんだかおれの家に似てるな」「金持ちってぇのは、おもてがまえばっかりりっぱでも、家ん中へ入ると、こんなもんなんだ。さぁ、おまえとおれのものを、早くつづらにしまえ」「あれっ、兄ぃ、この半てん、おれのだよ。たった一枚しかない半てん、うちのかみさん、もう質に入れちまいやがった」「いいから、早くつづらにしまえ」「うん、兄ぃ、この戸をあけてみようか。蔵があるかもしれないよ…、あっ、こりゃ押入れだ」「なにかあるか?」「あれれっ、こりゃおれのねまきに、枕だ。枕なんぞ質に入れやがって、おれを寝かせないつもりだな」「伊勢屋もへんなものを、質にとりゃがったな。いいから、つづらへ入れろ」「おやおや、蔵ん中かと思ったら、すぐ隣は、台所だ。あっ、おかまがあった。あれっ、ごはんが入ってる。ちきしょう、おれにめしを食わせねぇ気だな。兄ぃ、これ、うちのおかま」「泣き声なんかだすな。つづらにしまえ」「なべもある。ありゃ、中身はとうふのおみおつけだ。今朝飲んだから、おぼえてらぁ」「もっと金めのものはねぇのか?」「包丁があるよ」「包丁?」…ガタガタやいやいやってるうちに、与太郎のおかみさんが眼をさましました。「うるさいねぇ、なんだいおまえさん、いまごろ台所で、なにしてるんだい」

「いけねぇ、うちのかみさんまで、質にとりゃがった」


「4月19日にあった主なできごと」

1775年 アメリカ独立戦争…イギリスの支配から独立するため、アメリカが8年以上にわたって民主主義革命をなしとげた戦争を開始しました。

1824年 バイロン死去…ヨーロッパじゅうがゆれ動き、混乱していた19世紀の初めに、ロマン派の代表的な詩人として活躍しイギリス最大の詩人のひとりといわれるバイロンが亡くなりました。

1882年 ダーウイン死去…イギリスの博物学者で、生物はみな時間とともに下等なものから高等なものに進化するという「進化論」に「自然淘汰説」という新しい学説をとなえたダーウィンが亡くなりました。

「おもしろ古典落語」の114回目は、『猫久(ねこきゅう)』というお笑いの一席をお楽しみください。

ある長屋に、久六という行商の八百屋が住んでいました。性格がおとなしく、人といさかいをしたことがありません。なにをいわれても、ニコニコ笑っているところから、みんなは「猫久さん」「猫久」と呼んでいます。もっとひどいのになると、猫、猫とかいってまして、中には「にゃごさん、どちらへ?」「ちょっとそこまで」なんて、当人も平気で返事をしています。その猫久がある日、人が変わったように真っ青になって家に飛びこむなり、かみさんに「今日という今日はかんべんできねぇ。相手のやつを殺しちまうんだ、おっかぁ、脇差を出せっ」と、どなりたてました。

真向かいの熊五郎がどうなるかと見ていますと、かみさんは、とめるかとおもいきや、押入れから刀を出すと、神棚の前で、三ベン押しいただき、亭主に渡しました。「おい、おっかぁ、驚いたねえ。それにしても、あのかみさんも変わってるな」「変わってるのは、いま始まったことじゃないよ。あいつは長屋でも、いちばん早く起きるんだ。朝、井戸端で会ってごらん。『おはようございます』なんていいやがるんだよ」「てめえの方がよっぽど変わってらぁ、早起きしてどこが悪い。あいさつするのもあたりめぇじゃねぇか」とつぶやいて、熊が床屋に行こうとすると、かみさんが「昼のおかずは、いわしのぬただよ、今日は南風が吹いてるから、ぐずぐずしとくといわしが腐っちまうから、早く帰っとくれ。いわしだよ……」「やかましいわい、いわしいわしって、どなりやがって、昼のお菜がわかっちまうじゃねぇか、悪いかかぁもらうと六十年の不作だっていうが、まったくだ」とぶつぶついいながら、床屋に着きました。

「親方、すぐやってもらえるかな?」「ああ、いまこの旦那がすんじまえば、だぁれもいねぇ」「そりゃ、よかった、すぐでねぇと困るんだ。いわしの1件があるからな」「なんだ、いわしの1件ってのは」「いや、こっちのことさ」「そうだ、熊さんとこのむかいの猫が、あばれだしたっていうじゃねぇか」「おや、もう知ってんのか?」と、親方に猫久の話を一気にまくしたてると、客の旦那が口をはさみました。年のころ五十前後のでっぷり太った赤ら顔のお侍で、「あいや、それなる町人、なにやらこれにてうけたまわれば、猫のばけものが現れて諸民を悩ますとやら、人畜を傷つけるとやら申すが、その猫を一刀のもとに、拙者が退治してとらす。案内いたせ」

「いえっ、ちょいとお待ちを…、あっしのいいようが悪かったもんだから、お間違げぇになったのかもしれませんが、あの、これはほんとの猫じゃねぇんでござんす」「なに? しからば豚か」「いや、豚でもねぇんで。よく人のいいやつを猫みたいだなんていいますでしょう」「うん、いかにも、おとなしき仁をとらえて猫にたとえるな」「あっしんとこの長屋なんですがね、久六と申しまして、あんまりおとなしいもんで、猫みてぇだ、猫の久さん、猫久だって、これなんですよ。この猫久がどっかでけんかなんかしてきたらしく、今日という日はかんべんならねぇ、刀を出せとさわぎたてたんですがね。ところが旦那の前ですが、このかみさんが変わりもんで、とめりゃいいもんを、押し入れから刀を持ち出しましてね、神棚の前へ座ったと思ったら、口ん中で何かとなえてましたが、そのうち刀を袖にあてがって、ぺこぺこ三べんばかり頭をさげたと思ったら、刀を猫に渡しちまったんで、ま、話ってのはこんなおかしなものなんで、エヘヘヘ……」「しかと、さようか。笑ったきさまがおかしいぞ。もそっと、これへ出い」「ちょいと、床屋の親方、なんかいってくれねぇかなぁ。旦那が猫のご親戚だってぇことを、ちっとも知りませんで、いえ、わざわざ笑ったんでなく、ちょっとついでがあったもんで、旦那かんべんしてくんねぇ」

「なんじ、人間の性あらば、たましいを臍下(さいか)におちつけて、よぉーくうけたまわれ。日ごろ猫とあだ名されるほど人柄のよい男が、血相を変えてわが家に立ち帰り、つるぎを出せとは、男子の本分よくよくのがれざる場合、朋友の信義として、かたわら推察いたしてつかわさねばならぬに、笑うというたわけがあるか。また日ごろ、妻なる者は、夫の心中をよくはかり、否といわずわたすのみならず、これを神前に三ベンいただいてつかわしたるは、先方にけがのなきよう、夫にけがのなきよう、神に祈り夫を思う心底、あっぱれ、女丈夫ともいうべき賢夫人である。身共にも二十五になるせがれがあるが、ゆくゆくは、さような女をめとらせてやりたいものであるな。後世おそるべし。世のことわざに、外面如菩薩、内心如夜叉なぞと申すが、その女こそさにあらず、貞女なり、孝女なり、烈女なり、賢女なり、あっぱれ、あっぱれ、じつに感服つかまつった」

熊、なんだかよくわかりませんでしたが、いただくかかぁと、いただかないかかぁとでは、いただく方が本物なんだと感心して、家に帰りました。とたんに「どこで油売ってたんだよ。お昼のいわし、いわし」ときましたから、こいつに一ついただかせてやろうと、侍の口調をまねします。「男子……よくよくのがれ……のがれざるやとけんかをすれば」「ざる屋とけんかしたのかい?」「そうじゃない、夫はらっきょう食ってわが家へ立ち帰り、日ごろ妻なる者は、夫の真ちゅうみがきの粉をはかり、ここがいいところだぞ、けがのあらざらざらざらとくりゃ、夫にけがのないように、祈る神様、仏様。身共にも二十五になるせがれがあるが」「おまえさん、二十七じゃないか」「あればって話だ。こういう女をかかあにしてやりてぇと、あーあ豪勢、おどろいた」「おどろくのかい?」「ああ、ここんとこはずっとおどろくんだ。世のことわざが外道の面よ、庄さんひょっとこ、般若の面、テンテンテレツク天狗の面」「なにやってんだい、浮かれたりして」「その女こそさにあらずとくりゃ、いいか、貞女や孝女、せんぞやまんぞ、あっぱれあっぱれ甘茶でかっぽれ、あんぷくつかまったとくらぁ」「ばかばかしいよ、この人は」「いいか、てめぇなんぞ、おれが何か持ってこいっていったら、猫んとこのかみさんみてぇに、いただいて持ってこれめぇ」「なんだと思やっ、そんなことか。わけないねぇ」

いい合っていますと、前からねらっていたと見えて、本物の猫がいわしをくわえて逃げていきました。「ちくしょう、おっかあ、そのすりこ木でいいから、早く持って来いっ、張り倒してやるから。おいっ、なにをぐずぐずしてんだ」と、おかみさん、すりこ木を持って……、、

神棚の前にぴたりと座り、三度ていねいにいただいて、熊さんに渡しました。


「4月12日にあった主なできごと」

1573年 武田信玄死去…戦国時代の甲斐を本拠拠にした武将で、越後の上杉謙信と5回にわたる川中島の戦いを行ったことで知られる武田信玄は、三方が原の戦いで徳川家康を破り、その勢いで織田信長をせめる途中に、病死したとされています。

1861年 南北戦争勃発…アメリカ合衆国の南北戦争は、北部23州と、南部11州の意見の食い違いからはじまりました。黒人のどれいを使うかどうかが主な対立点で、工業の発達していた北部はどれい制廃止、大きな農場主の多い南部はどれい制維持です。1860年にどれい制廃止を叫んだリンカーンが大統領に当選すると、南部は、北部と分れて「アメリカ連邦」を設立して、4年に及ぶ内戦がはじまりました。

1945年 ルーズベルト死去…アメリカ合衆国の第32代大統領で、アメリカ政治史上でただ一人4度大統領になったルーズベルトが亡くなりました。

1961年 人類初の宇宙飛行…ソ連(現ロシア)の宇宙飛行士ガガーリンが、宇宙船ボストーク1号に乗り1時間48分かけて地球を1周。人類初の宇宙飛行に成功しました。「地球は青かった」という感想の言葉は世界じゅうをかけめぐりました。

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