児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

おもしろ落語

「おもしろ古典落語」の18回目は、『しわい屋』というお笑いの一席をお楽しみください。

「しわい屋」というのは、ケチ、しみったれのことで、けちん坊、赤にしや、吝嗇(りんしょく)、ガリガリ亡者……等など、いろいろな悪口がありますが、「6日知らず」というのがあります。どうして6日知らずなのかといいますと、日を数えるとき、指を1日、2日、3日、4日、5日と数えて握ったら、6日…と、いったん握ったものを、はなすのはいやだ、だから「6日知らず」だそうで、何とも世の中にはケチな人がいるもんです。

「小僧や、雨戸を修繕するんだ、お向いへ行って、金づちをかりておいで」「へい、行ってまいりました。でも、貸してくれません」「どうしてだ?」「鉄の釘を打ちなさるか、竹の釘を打ちなさるかっていうんで、雨戸を修繕するっていってますんで、鉄の釘でしょう。そしたら、それではお貸しできませんな。鉄と鉄でコチコチやられたら、金づちが減っちまいますから…ってんです」「何てまぁしみった野郎だ。しかたない、家のを使おう」どっちが、しみったれかわかりません。

ケチを自慢してる人たちがいます。「エー、つかぬことをうかがいますが、あなたは、どんなおかずでごはんを食べます?」「あっしは梅干です」「梅干をどんなふうにして?」「1日に1つずつ食べますな」「どんなふうに?」「朝めしのときに半分いただきます。昼に半分、で、晩は種をしゃぶって、それだけでは足りませんから、種を割って、中味をみんないただいてます」「そりゃ、ぜいたくだ」「これで、ぜいたくですか?」「そうですよ、日に梅干一つとすると、年に365つぶだ、同じ梅干をおかずにするんなら、もっと倹約しなくちゃ」「どんなふうに?」「いいですか、ごはんをよそったら、梅干をじっとにらむ。すると、だんだん口の中にすっぱい水がたまってくる。そうしたら、その勢いで、ごはんを食べてしまう。こうすりゃ、梅干は少しも減らない」何とも、あきれたものです。

「あなたの持ってる扇子は、どのくらいお使いになりますか?」「この扇子は10年使います」「で、どんな具合に?」「半分開きまして、最初の5年使います」「ほほう」「それがだめになったら、残りの半分を開いて、これを5年使います。都合10年」「ふーん、しかし、扇子の半開きっていうのはおもしろくないね。あたしなら、威勢よく全部開いちゃう。扇子を動かすと痛みが早いから、自分で首のほうを振る」 実にどうも、ものすごいのがいるもんです。

「こんばんは」「はいはい、いらっしゃい。お名前はおっしゃらなくても、声でわかります。門口は開けてますから、お入んなさい」「なるほど、開いてますな」「そりゃそうですよ。あたしが帰ってきて戸締りをする、また、あなたがいらしてそれを開ける、中へ入って閉める。帰る時に開けて、また閉める。そんなことをくりかえしてたら、戸も敷居もすりへってしまいますな。だから、ずーっと開けっぱなし」「こりゃ、恐れ入りやした」

「それにしても、真っ暗ですね」「家じゃ、夜になっても明かりはつけない」「でもこれじゃ、あなたがどこにいらっしゃるかわかりませんな」「手の鳴る方においでなさい。手なんかいくらたたいても減るもんじゃない。それどころか、だんだん皮が厚くなったら、ぞうりの裏張りに使えます。ちょっとしんぼうしてると、暗闇でもだんだん見えてくる……」「ほんとうだ、見えてきました。おや、驚いた、あなたはだかですか」「そう、年中はだか、表へ出るときだけ着物をきます」「寒いでしょうな」「いや、寒くなんかない。こっちへきて、あたしの身体をさわってごらんなさい、汗がでてるから…」「汗? あぁ、ほんとうだ。どういうわけで」「あたしの頭の上をごらんなさい」「何かぶらさがってますな」「たくあん石。あれを今にも切れそうな細びきでぶらさげてありますので、すわっていると、細びきが切れて、頭の上に落ちてきやしないかと、いつも冷や汗をかきつづけというわけでな」「いゃー、こんなとこにゃ危なくて、長居はしていられない、おいとまします」「お帰りですか、じゃこの薪をお持ちなさい」「これをどうしようってんです」「あなたの目と鼻の間をぶんなぐるんです」「そんなことしたら目から火がでる」「火が出たら、その火で履きものをさがしなさい」「いや、ご心配ご無用、たぶんそんなことだろうと思って、あたしは下駄をはかずにまいりました」

「裸足できなすったか、たぶんそうだろうと思って、こっちも、畳を裏返しにしておいた」


「4月6日にあった主なできごと」
 
1483年 ラファエロ誕生…ルネサンス期を代表する絵画、建築はじめ総合芸術の天才といわれるラファエロ が誕生しました。1520年に亡くなった日でもあります。

1896年 第1回オリンピック開催…古代ギリシアで4年に1度開催されたスポーツ競技を復活させようと、フランスの クーベルタン による提唱で国際オリンピック委員会(IOC)が1894年につくられ、この日ギリシアのアテネで近代オリンピック第1回大会が開かれました。参加国14か国、競技種目43種目、選手数240人と、小規模なものでした。

1919年 非暴力・非服従運動…インド独立運動の指導者 ガンジー は、支配国イギリスに対する非暴力・非服従運動を開始しました。この日、反英運動への取り締まる法律が施行されたのに、断食をして抗議したのをはじめ、イギリス製品の綿製品をボイコットして、伝統的な手法によるインドの綿製品を着用することを自ら糸車をまわして呼びかけるなど、不買運動を行いました。

「おもしろ古典落語」の17回目は、『長屋の花見』というお笑いの一席をお楽しみください。

四季を通じて人の心持ちが浮きうきするのが春です。春は花なんてことを申しまして、まことに陽気です。「おい、花見に行ったってじゃないか」「おう、きのう飛鳥山へ行ったが、たいへんな人だぜ、仮装なんか出ておもしろかった」「そうかい、花はどうだった?」「花? さぁ、どうだったかな」花見というのは名ばかりで、たいていは人を見に行くか、騒ぎに行くらしいようで……。

「大家さん、おはようございます。長屋の者がそろってやってきましたが、なにかご用でしょうか」「ああ、みんな来たかい。そこじゃ話が遠いから、みんなこっちへ入んな」「いえ、もう結構です。あのー、店賃(たなちん)でしたら、もう少し待ってもらいたいんですがねぇ」「何だ、店賃だと? おれが呼びにやると、すぐ店賃と思ってくれるのはうれしいけど、今日は店賃の催促じゃないよ」「ああ、そうですかい、じゃ、店賃はあきらめましたか」「ばかいってもらっちゃ困る。あたしもな、あんな長屋貸しておくんだから、店賃を満足に取ろうなんて考えちゃいないが、雨露をしのいでいるんだから、精だして、入れておくれよ」「雨露といいますがね、こないだの大雨の時なんぞは、家ん中にいられねぇで、表へかけだしたもんなんですよ」「大げさなことをいうな」「えへへ、何しろ寝ながらにして月見ができるんですから、風流な家ですよ。あっしら、重しのかわりにいるようなもんで、いなけりゃ、大風で吹き飛んでしまいますからね」

「ばかなことはそのへんにしておけ。うちの長屋のことを、『貧乏長屋』なんぞといってるやつがいることは知っている。ひとつ貧乏を追っ払うために、景気をつけて、上野の山へ花見にでも出かけようと思うんだがどうだ」 酒も一升瓶を3本用意したと聞いて、一同大喜び。ところが、酒といっても、番茶を煮だして薄めたもので、お茶けでお茶か盛りをしようというのです。玉子焼きとかまぼこの重箱も用意したといっても、中味はたくあんと大根のおこうこ。下に敷くという毛氈(もうせん)も、むしろの代用品です。

まあ、向こうへ行けばがま口ぐらいは落ちているかもしれないと、さもしい料簡で出発しました。はじめから意気があがらないことはなはだしく、ようやく着いた上野の山は今満開で、大変な人だかり。毛氈のむしろを思いおもいに敷いて、みんなで丸くなって座ると、一升瓶と重箱をまん中におきました。「さぁ、湯のみ茶碗をくばって…さぁ、遠慮なく飲んだのんだ」「誰がこんな酒飲むのに遠慮なんかするもんか、ばかばかしい」みんなしぶしぶ飲みながら文句をいっています。

「おい、酒なんだから、ついでもらったら喜ぶもんだ。えっ、どうだい口当たりは? あま口か、から口か?」「しぶ口!」「しぶ口なんて酒があるか。いい味だろ?」「いい酒ですね、宇治ですかい?」「宇治はお茶だ。おい、おまえはさっきから何も飲んでねぇな」「酒は飲めねぇんで」「だったら、食べものがあるだろ。卵焼きをお食べ」「このごろすっかり歯が悪くなっちまって、卵焼きは刻まないと食えねぇんで」「卵焼きを刻むやつがあるか」「大家さん、あっしは、かまぼこをいただきます」「おーい、かまぼこだそうだ、とってやれ」「あっしは、このかまぼこが好きでしてね」「そうかい、そいつはよかった」「ええ、毎朝、刻んでおつけの実に使います。このごろは、練馬へ行きましても、かまぼこ畑が少なくなりました。あっしはどっちかっていうと、かまぼこの葉っぱが好きで…」「かまぼこに葉っぱがあるか、もういいよ、だまっておあがり」

「すみません、卵焼きをひとつもらおうかな」「うまいな、向こうの人がこっちをひょいと見たよ。おーい、卵焼きだそうだ、とってやれ」「うん、しっぽじゃないとこ」「なんだ、何にもならねぇじゃないか。どうだ、みんなはさっきから飲んだり食ったりしてるが、誰も酔わねぇなぁ、酔っ払いの一人も出て、けんかの一つもなけりゃ花見らしくないじゃないか。向こうじゃ、『甘茶でかっぽれ』を踊ってるぞ」「こっちは『番茶でさっぱり』だ」

「おい、今月の月番、景気よく酔っぱらっとくれ」「いえね、大家さん、酔わねぇふりをしろってえならあっしもできますが、お茶飲んで酔ったことはないんで、誰かほかに…」「無理は承知の上だ、あたしゃ恩にきせるわけじゃないよ、だけどおまえにゃずいぶんめんどうをみてるはずだよ…」「じゃ、つきましては…『酔いました、えー、べらんめぇ』」

「そんな酔っぱらいがあるか、もうおまえはいい、来月の月番、ひとつうまく酔ってくれ」「はっはっ、来たな。しゃねぇや『さぁ、酔った、酔ったぞー』」「おう、ずいぶん早いなぁ」「ほんとにおれ酒飲んで酔ったんだぞー、ほんとだぞう」「ことわらなくていい」「ことわらなくちゃ、気が違ったと間違わられちゃうからなぁ…『貧乏びんぼうっだってばかにすんな、借りたもんなんざ、どんどん利息つけて返してやらぁ』」「こいつは威勢がいい、その調子だ。どうだ酔った気分は?」「うーん、去年の夏、井戸へ落っこちたときとそっくりだ」「変な心地だな、でもおまえだけだ、酔ってくれたのは。どんどんお酌してやれ」「さぁ、ついでくれぇ、あっ、こぼしゃがったな…おやっ、大家さん!」「どうした?」「近ぢか長屋にいいことがありますぜ」「どうしてそんなことがわかる?」

「この湯のみに、『酒柱』が立ちました」


「3月31日にあった主なできごと」

1727年 ニュートン死去…万有引力を発見したことで有名なイギリスの物理学者・数学者ニュートンが亡くなりました。

1732年 ハイドン誕生…ソナタ形式の確立者として、モーツァルト や ベートーベン に大きな影響力を与え、104もの交響曲を作ったことで知られる古典派初期の作曲家ハイドンが生まれました。

1889年 エッフェル塔完成…フランス革命100周年を記念したパリ万博のシンボルとして、この日エッフェル塔が完成しました。当時300mという世界一の高さを誇り観光客にはたいへん人気となりましたが、鉄骨むきだしの姿はパリの美しい景観をそこねると賛否両論の声があがりました。

1906年 朝永振一郎誕生…量子力学の研究の中から「超多時間理論」をまとめ、それを発展させた「くりこみ理論」を発明した功績によって、ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎が生まれました。

1970年 よど号ハイジャック事件…100余名を乗せた日本航空旅客機「よど号」が、富士山上空を飛行中に、赤軍派学生9名にのっとられました。わが国初のハイジャック事件。犯人たちは北朝鮮へ亡命したいと要求、よど号は福岡と韓国のソウル金浦空港を経由して北朝鮮の美林飛行場に到着しました。乗員と乗客は福岡とソウルで解放されたものの、身がわりとなった山村新治郎運輸政務次官と犯人グループは北朝鮮に向かい、山村氏はその後帰国、犯人グループは亡命をはたしました。

「おもしろ古典落語」の16回目は、『花見酒』というお笑いの一席をお楽しみください。

幼なじみの熊さんと辰っつぁん、向島の桜の花が見頃という評判を聞いて「ひとつ、花見にくりだそうじゃねぇか」と、話がまとまりました。ところがあいにく二人とも金がまったくありません。そこで兄貴分の熊が、いいことを思いつきました。酒樽をかついでいって、茶碗1杯を5銭で売ろうというのです。そこで、近所の面倒見のいい酒屋へ頼んで、酒三升、樽、ひしゃく、茶碗、天秤(てんびん)と縄、おまけにつり銭まで、そっくり借りました。

「どうだ、この酒を残らず売ってしまえば、原価(もと)が半分だから、半分もうかる」「兄いは、うめぇこと思いついたもんだなぁ」「いいか、10銭の銀貨を持ってきて、5銭のつりをくれっていう客に、『小銭は出払いました』なんていえねぇから、5銭のつり銭まで借りてきたんだ」「そりゃ何から何まで兄ぃはいきとどいてるね」「花に嵐ってたとえもあるぜ、今はいい天気だが、いつ何どきポツリとこねぇともかぎらねぇから、これからすぐに出かけよう。うまく儲けて、あとでうんと飲もうぜ」

ということで、酒樽を縄でゆわえ、辰が先棒、熊が後棒になって天秤をかついで向島へむかいます。ところが、花見どきですから、春風がそよそよ吹いていまして、それが酒樽の上をなぜてプーンと、後棒の熊のところに流れてきます。「なぁ辰、おまえは風上だから気がつくめぇが、おれんとこにゃ、鼻っ先に酒樽があるんだ。酒の匂いがまともに鼻にぶつかる…ああ、飲みてぇ!」「そうか、そりゃ悪かった」「なぁ、商売もんだから、ただ飲んじゃ悪いけど、買う分にゃいいだろう」「そりゃ、そうだな。他の酒屋に儲けられるよりゃ、おれとおまえが儲かるんだからな。じゃ、ここで酒樽を降ろすよ」

「じゃ、この茶碗に、そのひしゃくで1杯くんでくれ…で、5銭おめぇに渡すよ」「へぇ、どうもお客さん、ありがとうございます」「じゃ、まぁ飲むよ、ああ、おいしいね」「おいしいだろうよ、飲んでるやつはうめぇだろうが、見てるもんはちっともうまくねぇ…おい、のどがビクビクいってるよ。どうだ、少し残して、おれにくれるって気持ちはねぇか」「なにいってるんでぇ、おまえは商人(あきんど)じゃねぇか。商人が『酒、残しておれにくれ』なんて、ぐずぐすいうやつがあるか? おめぇだって、そこに5銭もってるじゃねぇか」「5銭? ああ、そうか、これで買やぁいいのか。じゃ、ひとつ売ってもらおうか」「いいとも、いいとも…へい、お待ちどうさま」「ああ、ありがてぇ…なるほどうまい、なんともいえねぇ、いい酒だ」

しばらく歩いて、また飲みたくなった熊は、おれにもう1杯、辰もおれにも1杯と何度もくりかえしているうちに、やっと向島へ着きました。二人とも酔っぱらってへべれけです。「さぁ、店開きだ」「さぁ、さぁ、いらっしゃい。1杯5銭だよ! 飲んで酔わなきゃお代はいらないよ、ってやつだ」「おいっ、あそこで酔っ払いが酒売ってるよ。1杯5銭だとよ、おもしろいじゃないか、こんなに酔いますってとこを見せてやがんだ…おい、一杯おくれ」

ところが樽の中は、空っぽです。「ははーん、ははは…売り切れちゃった、またいらしゃい」あきれて客は帰っていきます。売り上げの勘定をしようと、熊は腹掛けを探しましたが、5銭銀貨が1枚あるだけです。「おめぇ、三升の酒が売れて、売り上げが5銭しかねえというのはおかしいぞ」「どこにもねぇよ」「ああ…それでいいんだ。よく考えてみねぇ、はじめにおれが1杯買って、てめえも一杯買った。また少ししておれが1杯、てめぇも1杯……5銭の銭が行ったり来たりしているうちに、三升の酒をみんな二人で飲んじまったってわけだ」

「あ、そうか…勘定は合ってる。してみるとムダがねえや」


「3月28日にあった主なできごと」

1868年 ゴーリキー…「どん底」 「母」 などの作品を通し、貧しい人々の生活の中にある不安や、社会や政治の不正をあばくなど 「社会主義リアリズム」 という新しい道を切り開いたロシアの作家ゴーリキーが生まれました。

1876年 廃刀令…軍人・警察官・大礼服着用者以外、刀を身につけることを禁止する「廃刀令」が公布されました。これを特権としていた士族の不満が高まり、士族反乱につながっていきました。

1930年 内村鑑三死去…足尾鉱毒事件を非難したり日露戦争に反対するなど、キリスト教精神に基づき正義と平和のために生きた思想家内村鑑三が亡くなりました。

1979年 スリーマイル島原発事故…アメリカ東北部ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所で、重大な原子力事故が発生しました。国際原子力事象評価尺度 (INES) ではレベル5となっています。

「おもしろ古典落語」の15回目は、『死神(しにがみ)』というお笑いの一席をお楽しみください。

借金でどうにも首が回らなくなった男、3両の金策にかけまわるものの、誰も貸してくれません。かみさんには、金ができないうちは家には入れないと追い出され、ほとほと生きるのが嫌になりました。

「貧乏神よりも、おれは死神に取りつかれたんだな。ひと思いに首をくくろう」とつぶやくと、「おーい、呼んだか」という声がします。びっくりして振り返ると、すっーと出てきたのが、薄い毛が頭へぼゃっと生えて、ねずみ色の着物の前がはだけて、あばら骨が透き通るようにやせこけ、汚い竹の杖を突いた老人です。「へっへっへ、死神だよ。いま、わしを呼んだろ?」「呼ぶもんかっ、どうも変だと思った。急に死のうなんて気になるなんて、てめぇのせいだな、あっちへ行け!」「まぁ、そうじゃけんにいうなよ。おまえが今、死神にとりつかれたなんていうもんだから、てっきり呼ばれたもんだと思って、うっかり出てきちまった。まぁ、これも何かの縁だ。仲良くしよう」

「ごめんこうむらぁ」と逃げようとすると、死神は手招きして、「恐がらなくてもいい。人間ていうのは、いくら死にてぇといったって寿命というのがあって、時期がこなければ死ねるもんじゃねぇ。おまえはまだ寿命があるから安心しろ。それより儲かる商売をやってみねえか。おまえさん、医者になれ」「医者? おれは、脈の取りかただって知らないよ」「脈なんてとらなくたっていい。病人が治れば、おまえはお医者さんで立派に世間に通用するんだ……今おれがな、他の者には見えねぇで、おまえにだけ見えるまじないをしてやったから、長患いをしている病人の部屋へ入って、頭か足のほうを見ろ。必ず死神が一人ついてるもんだ」「へぇ?!」「枕元に座ってるのはいけねぇよ。死神が足元にいる時はこうするんだ、『あじゃらかもくれん、あるじぇりあ、てけれっつーのぱぁ』と呪文をとなえて、手を二つたたいてみな、死神は消えなくちゃならないことになってるんだ。するてぇと、病人はウソのようにけろっと治っちゃう。そうなりゃ、おまえは立派に医者でやっていける」

半信半疑で家に帰った男は、医者の看板を出したところ、まもなく日本橋の豪商から使いが来て「娘が大病で明日をも知れないので、ぜひ先生にご診断を」と頼まれました。行ってみると果たして、病人の足元に死神がいます。「しめた」と、教えられた通り呪文をとなえると、あーら不思議、病人はけろりと全快したではありませんか。これが評判を呼び、たいへんな名医というのであっちからもこっちからもひっぱりだこ。たまに死神が枕元にいると、「これは寿命がつきているから助かりません、おあきらめを…」というと、表に出るか出ないかのうちに息をひきとります。そんなわけで、生き神様とまであがめられ、大邸宅を構えてぜいたく三昧、女房子どもを引き連れて上方見物にでかけました。しかし、しょせん身につかない金、江戸にもどったころには、また以前の一文無しになっていました。

困り果てているある日、江戸でも指よりの「伊勢屋」という大家から、ご主人の容態が思わしくないので、見立ててほしいという使いがきました。出かけてみると、死神が枕元にいます。「残念ながら助かりません」と因果を含めましたが、先方はあきらめきれず、「助けていただければ1千両、いや3千両差し上げる」といいます。これを聞いて目がくらんだ男は、一計を案じました。

若い衆を4人、四隅に座らせ、死神がちょっと居眠りしている隙に、合図と同時に寝床をぐるっと回してしまおうというのです。作戦は大成功、死神がはっと目を覚ますと病人は、足元にいます。『あじゃらかもくれん、あるじぇりあ、てけれっつーのぱぁ』の呪文と手拍子。わっと驚いた死神は、そのまま姿を消してしまいました。いっぽう病人は、元気に起き上がったので、男は約束どおり3千両もらってごきげんです。

ところがその帰り道、あの死神に出合いました。「あっ、死神さん」「『~さん』だと、ばか野郎。何だってあんなことをしたんだ」「どうもすいません。ここんとこ、ひどい暮らしでして…そこへあんた、3千両と聞いたもんですから…つい、悪く思わないでください」「ひどい目にあわせるじゃねぇか、恩を仇で返しやがった。これから、おれの後をついてこい」と死神は、うす気味悪い地下室に男を連れこみました。そこには無数のローソクがあって、すべて人の寿命だといいます。男のローソクは、もう燃え尽きる寸前。「てめえは生と死の秩序を乱したから、寿命が伊勢屋の主人の方へ行っちまったんだ。もうこの世とおさらばだぞ」

男が泣いて頼むと死神は、「それじゃ、もう一度だけチャンスをやる。てめえのローソクが消える前に、別の消えかけにうまくつなげれば寿命は延びる」男は懸命につなごうとしますが、手が震えてなかなかつなげません。

「ほら、早くしろ」「へ、へぇ…あぁ、消える……」


「3月25日にあった主なできごと」

1499年 蓮如死去…親鸞 が開いた浄土真宗の教えを、わかりやすい言葉で民衆の心をとらえ、真宗を再興させて「中興の祖」といわれる 蓮如 が、亡くなりました。

1872年 樋口一葉誕生…「たけくらべ」「十三夜」「にごりえ」などの名作を残し、わずか24歳で亡くなった作家 樋口一葉 が生まれました。

1878年 初の電灯…この日中央電信局が開設され、その祝賀会でわが国初の電灯としてアーク灯が15分ほど灯りました。ただし、一般の人が電灯を見たのは4年半後に銀座通りにアーク灯がついてからでした。一般家庭で電灯がつくようになったのは1887年11月のことです。

1957年 EECの結成…EEC(ヨーロッパ経済共同体)は、この日、フランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク6か国の代表がローマに集まって、結成のための「ローマ条約」を結びました。1958年1月からEECは正式発足しましたが、その経済面での発展はめざましいもので、ヨーロッパ経済の中心となるばかりでなく、EC(ヨーロッパ共同体)、さらにEU(ヨーロッパ連合)となっていきました。EUの加盟国は、2007年1月にブルガリアとルーマニアが加盟したことにより現在27か国。EUを単一国家とすると、GDPはアメリカ合衆国を上回って世界第1位となっています。

「おもしろ古典落語」の14回目は、『王子のきつね』というお笑いの一席をお楽しみください。「王子」といっても童話の王子様ではありません。江戸にある地名で、当時はうらさみしい場所でした。

昔話にでてくる「きつね」というのは、愛嬌のある化け方をする「たぬき」とちがって、どちらかというと陰険でたちの悪い化け方をします。風呂だといっては野良の糞尿(こい)だめの中に人をつけたり、酒だといって馬の小便を飲ませたり、ぼた餅だといって馬糞を食べさせたり…。でも、きつねはまた、稲荷の使い姫といって、信仰の厚い方は、とても大切にします。

王子稲荷の近くの稲村の陰に、一匹のきつねがいました。頭に草を乗っけ、ひょいとひっくりかえると、たちまち22、3歳の若い女に化けました。それを不思議そうに見ていたある若い男、「(やっ、化けた。いい娘に化けたもんだね。誰を化かそうっていうんだろう?  誰もいないよ。ていうことは、このおれを化かそうってんだ。やだよ、逃げよう。でも、追っかけてくるんだろうな。そうだ、化かされたつもりで、向こうを化かしてやろうか)…そこにいるの、お玉ちゃんじゃありません?」

「あらっ、まあぁ、兄さん。しばらく」「(しばらくだってやがる。こっちは会ったこともないのに。でも向こうに合わせておかないと、こわいからね) どうも、しばらくでした。どちらへ?」「ええ、今お稲荷さまへお詣りして、その帰りにあんまりお天気がよくて気持ちがいいから、裏手をぶらぶら歩いていたの」「そうかい、じつはおれもお稲荷さまへお詣りにいった帰りよ、それにしても、よくおれのことを覚えていてくれたねぇ。お玉ちゃんもすっかりきれいになって、どうです、せっかくだから、ちょっといっしょに飯でも食いませんか」「あたしは構わないんですけど、兄さんこそ、あたしみたいな者といっしょではご迷惑じゃありません?」「とんでもねぇ、そんなら、この先に扇屋という料理屋があるんです。そこへ行って、ゆっくりお話をいたしましょう」

料理屋の2階に上がって、さかずきのやりとりをするうち、お玉ちゃんはすっかり油断して、いい心持ちになってしまいます。「兄さん、あたしすっかり酔っちまったわ」「うん、そういやぁ、だいぶいい色になったねぇ。ちょっとやりすぎたんですね。そこへ、横んなって、…いいさ、おれとお玉ちゃんの仲じゃないか、この座布団を2つに折って、枕がわりにして…そうそう、で、いい頃を見計らって、起こしますから、安心してお休み、あたしはここで飲んでいますから」

お玉ちゃんはぐっすり寝込んでしまいました。それを見届けた男は、そうーっと階段を下りると「お帰りでございますか?」「しーっ、静かにしておくれ、いまね、2階で連れの女が寝たところだから…なぁに、ちょっと飲みすぎて、頭が痛いとかいってるから寝かしたんだ。心配はいらねぇ…ちょっと思い出したんだが、この先におじがいるもんでね。またってぇのはおっくうだ、ちょっと来たついでに顔だししようってやつだ。なんかこう、土産になるようなものはないかい? えっ、卵焼き? あっ、それを3人前ばかり折につめておくれ。…それから、勘定はね、2階の連れからもらっとくれ。いいかい、ちゃんと財布を預けておいたから。まだしばらく寝かしておいて、こっちから起こしちゃいけないよ。目をさましたら、用足しがあって、おれは帰ったとそういっておくれ。…折詰ができた? じゃ、よろしくたのむよ」

いっぽう料理屋の方では、そろそろ勘定をというので、2階に仲居さんが上がってお玉ちゃんに声をかけますと「…まぁ、すっかり酔ってしまって…あいすみません。あらっ、連れの者はどうしました?」「なんでも、ご近所に親戚がおありなので、ちょっと顔だしをしてくるとか、卵焼をお土産にお帰りになりました」「まぁ、そうですか。人を寝かしたままで帰っちゃうなんてひどい人ですわね。で、こちらのお勘定は?」「それが、あなたさまからいただくようにと……」

ビックリしたとたんに、きつねは神通力を失ったのでしょう。口が耳まで裂けると、耳がピーン立って、後ろから太い尻尾がニューッと飛び出してきましたから、仲居さんは驚いて部屋を飛び出し、階段を踏みはずしてガラガラガラ…ストン。かけつけた男どもが「やや、こりゃきつねめ。さては先ほど帰った男も、うむ、太いやつだ」と寄ってたかってさんざんに打ちのめしましたから、きつねはたまらず、命からがら逃げだしました。そこへ扇屋の旦那が帰って事情を聞くと、男どもを一喝しました。

「ここはどこだ? 王子だぞ、うちの店がこうやって繁盛しているのも、みんなお稲荷さまのおかげなんだ。おきつねさまてぇのは、お稲荷さまのお使い姫ぐらいのことは、お前たちも知ってるだろう。そのおきつねさまが、わざわざ来てくださったんだ、日頃の恩返しに、うんとごちそうしてお帰し申すのがあたりまえだ、それを殴ったり、たたいたりして、とんでもねぇやつらだ、誰だ、殴ったのは?」こうして、扇屋では店を閉め、お詫び詣りに、みんなでお稲荷さんへ出かけて護摩をあげるという大騒ぎ。

そうとは知らず途中でずらかった若者は、卵焼の土産を持って友だちの家を訪ねます。きつねをだました自慢話をすると、「馬鹿ったれ、きつねは稲荷の使いだぞ。そんなイタズラをすれば必ずたたるから、ぼた餠でも持ってわびに行け」とさとされて、翌朝きつねに出あったあたりに来てみると、子ぎつねが遊んでいます。聞けば、おっ母さんが人間に化かされたあげく、全身打撲で床にふしているといいます。さてはと合点して平謝り。ぼた餠を子ぎつねに渡すと、ほうほうの体で逃げ帰りました。

子ぎつねは、ウンウンうなっている母ぎつねに、「おっかさん、人間のおじさんがボタ餠を持ってあやまりに来たよ。食べようよ」

「お待ち。たべちゃいけないよ。馬の糞かもしれない」


「3月23日にあった主なできごと」

1910年 黒沢明誕生…映画『羅生門』でベネチア国際映画祭でグランプリを獲得した他、『七人の侍』『生きる』『椿三十郎』など、数多くの映画作品の監督・脚本を手がけ、国際的にも「世界のクロサワ」と評された 黒沢明 が生まれました。

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