児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

おもしろ民話集

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 8]

むかし、ある村に、水車小屋をひとつ持っている正直な男がいました。
ある日のこと、リンゴがひとつ川上から流れてきました。おいしそうなりンゴです。男は思わず、ひと口かじりました。
でも、男はハッとしました。「このリンゴは、ひとさまのものだ」 ということに、気がついたからです。
男は「リンゴの持主におわびをしよう」と、水車小屋をしめて、旅にでました。そして、川上を歩いていくと、3日目に、1本のリンゴの木を見つけました。赤い実は、男がかじったものと同じです。男は胸をなでおろして、リンゴの持主に 「おわびに、私がもっているどんなものでも、さしあげます」 と、頭をさげました。
ところが、主人は 「いやいや、ぜったいにゆるさない」 と言いました。主人は、こんなことでおわびにきた男を、きっとバカだと思ったのでしょう。すると男は、「では、ゆるしていただけるまで、あなたの召使いになって働きます」 と言いました。

よく朝のこと。りんごの主人の家の軒下に、昨日の男がいます。
「おいおい、いったい、いつまでいるつもりだ」
「お許しをいただかなければ、死ぬまででも……」
これを聞いた主人は、こんどは、考えこんでいました。
そして、しばらくすると、男を見つめながら言いました。
「わたしには、むすめが1人いる。でも、そのむすめには、目も耳もない。手もない。足もない。だから、1歩も歩くことさえできないのだ。もし、おまえが、こんなむすめを嫁にしてくれるのだったら、リンゴを食べたことを許そう」 すると男は、「はい、ありがとうございます。おゆるしいただけるのでしたら、喜んで……」 と、きっぱり答えたではありませんか。
主人は、さっそく、男を家へ招きいれると、お祝いの準備をすませ、男を、奥のへやに通して、戸をぴったりとしめました。

男は、おそるおそる顔をあげました。すると、部屋のすみに、まちがいなく一人のむすめがいます。でも、手も足もないむすめどころか、とてもきれいな娘なのです。おどろいた男は、あわてて主人をよびました。
「あなたは、まちがえています。目は見えず、耳は聞こえず、手も足もないとおっしゃったのに、この方は、これまで、わたしが出会ったこともないような、すばらしいむすめさんではありませんか」
でも主人は、ほほ笑みながら言いました。
「どんなすがたをしていても、もう、むすめは、あなたのものですよ。むすめも、きっと、よろこんでくれると思います」 男は、もういちど驚きました。こんどはうれしい驚きです。そして、主人に、よろこんでむすめを嫁にすることを約束しました。
やがて主人は男に言いました。「わたしは、はじめは、あなたをバカだと思っていました。ところが、あなたの話を聞いているうちに、あなたほど正直で心の美しい人はいないことがわかりました。だから、むすめを、さしあげることにしたのです。どうぞ、むすめを幸せにしてあげてください」

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 7]

あるところに、まずしい、じいさまと、ばあさまがいました。
ある日、じいさまが、山へ柴かりに行くと、どこからともなく、ドスコイ ドスコイという声が、きこえてきました。
じいさまは、ふしぎに思って、声のするほうへ行ってみました。
すると、やせたネズミと、ふとったネズミが、けんめいにすもうをとっています。木のかげから、そっと見ると、ふとったほうは、長者どんのところのネズミ、やせたほうは、じいさまの家のネズミです。
じいさまの家のネズミは、ドスコイと立ちあがると、すぽーん、すぽーんと、投げとばされてしまいます。
これを見たじいさまは、自分の家のネズミがかわいそうでなりません。柴をかるのもわすれて、家へかえったじいさまは、ぱあさまに、山で見てきたことをすっかり話し、ふたりはかわいそうなネズミのために、もちをついてやりました。
その夜、ネズミは、戸だなに入れてあったもちを、腹いっぱい食べました。いままで食べたこともない、おいしいもちです。

さて、そのつぎの日、じいさまが山へ行くと、ドスコイ ドスコイ、ドスコイ ドスコイと、かけ声がきこえてきます。
木のかげからそっと見ると、長者どんのところのネズミも、じいさまの家のネズミも、しっぽをぴんと立てて、いっしょうけんめい。
きょうは、なんどやっても、勝負がつきません。やがて、ドスコイのかけ声がやむと、ネズミの話が、きこえてきました。
「おまえ、どうして急に力持ちになったんだい?」
「えへへ、きのう、家のじいさまとぱあさまに、もちを腹いっぱいごちそうになったのさ」
「なーるほど、そうだったのか。それにしても、うらやましい。どうだろう、今夜、おれも行くから、ごちそうしてくれないかなあ」
「おらの家のじいさまと、ばあさまは貧乏だから、おれがもちにありつけるなんて、めったにないんじゃが、おまえが、うんとお金をもってくるなら、ごちそうしてやってもいい」
「それは、ありがたい。こん夜は、もちにありつけるぞ」

きのうまで、すぼーん、すぽーんと負けていた、じいさまの家のネズミが、ひげをピクピク動かして、いばっているのがおかしくてしかたがありません。じいさまは、また、柴をかるのを忘れて家へかえると、ぱあさまに話しました。そして、きのうのよりもっと、おいしいもちをついて、2枚の、赤いかわいいふんどしといっしょに、戸だなに入れておいてやりました。
夜、 長者どんのネズミが、お金をうんとせおってやってくると、食べても、食べても、食べきれないほど、もちがあります。そのうえ、赤いふんどしまであります。長者どんのネズミは、ごきげんで帰っていきました。

さあ、つぎの日、じいさま山へ行くと、太った2ひきのネズミが、赤いふんどしをきりりとしめて、ドスコイドスコイ……。
どちらが、じいさまの家のネズミか、わかりません。
じいさまとばあさまは、ネズミからもらったお金で、しあわせにくらしましたとさ。

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 6]

むかし、ある山のふもとで、トラが穴に落ちていました。いくらもがいても穴から出られません。そこへ一人のお坊さんが通りかかりました。トラは、悲しそうな声を出して、「お願いです。どうか、助けてください」 と、たのみました。
かわいそうに思ったお坊さんは、トラを引き上げてやりました。

ところがどうでしょう。トラは穴から出たとたんに、目を怒らせて 「おい、坊主。おまえを食ってやる」 と、いうではありませんか。
お坊さんはビックリして、「待ってくれ、助けてやったのに、食べるとはひどいじゃないか」
でも、トラは 「トラなんかを、助けたお前が悪い」 と言うばかりです。
お坊さんは考えました。「それじゃ、悪いのは私かお前か、ボダイジュの木に聞いてみよう。

ところが ボダイジュは言いいました。
「人間は、私たちの仲間の木を、たくさん切っている。トラさん、坊さん一人くらい食ったって、かまやしないよ」
あわてたお坊さんは、「もう一度待ってくれ、クマにもきいてみよう」 といいいました。
通りかかったクマがいうことは、「人間は、おれたちの仲間をたくさん殺している。トラさん、人間一人くらい食ったって、かまわないよ」
これを聞いたトラは 「ほら、やっぱりな」 と、大きな口を開けて、お坊さんを食べようとしました。
お坊さんはこまりました。でもやっぱり食べられるのはいやです。
「もう1度待ってくれ。むこうから来るキツネに聞いてみるから」 と言いました。
ところが、キツネは頭をひねるばかりで、ブツブツ言いはじめました。
「何なに? 穴がトラの中へ落ちて、そこへ坊さんが通りかかったんだね。何、違う? それじゃ、トラが坊さんの中へ落ちて、そこへ穴が通りかかったのかな。あーあ、サッパリわからん」

さあ、これを聞いていて、イライラしはじめたのはトラです。
「こらこら、うすのろギツネ、今おれが、はじめからやってみせるからよく見てろ。はじめは、おれがこうして穴へ落ちたんだ。
トラは、大声でこう言うと、もういちど穴へとびこみました。そして 坊さんにむかって 「おい坊主、さっきのようにオレを引き上げろ。そうすりゃ、うすのろギツネだって、話がわかるだろう」 と言いました。

でもキツネは、うすのろといわれたのを怒りもしないで、お坊さんに言いました。
「お坊さん、どうしますか。もう一度、助けてやりますか」
お坊さんは答えました。「恩知らずなトラなんて、もう引き上げてやるものか」
やがて、お坊さんとキツネが遠くへ行ってしまうと、穴の中からトラのほえる声が聞こえるばかりでした。

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 5]

あるところに、とても太った奥さんがいました。歩くのもやっとというほどなのに、なかなかやせません。そこである日、奥さんは、ヨタヨタ歩いて、医者をたずねました。

「先生、私はどんどん太るばかりでホントに困っています。やせ薬をもらえませんでしょうか」

奥さんは、いっしょうけんめい頼みました。でも、医者は診察もしなければ薬もくれません。

「きょうは、診察代だけ払って、お帰りなさい。あした、また来てください」といって、高いお金だけとって、奥さんを帰しました。

奥さんは翌日、いわれたとおり、また、医者のところへ来ました。
医者は、奥さんの頭のテッペンから、足の先までながめました。口の中をのぞき、手と足にちょっとだけさわりました。
それから、首をかしげ、ためいきをつきながら言いました。

「奥さん、きのう私は、2783冊の本を読み、197回も星占いをやってみました。その結果をお話します。びっくりしないで、聞いてください。あなたの命は、のこり1週間、7日のあいだしかありません。もうすぐに死ぬのですから、薬を飲んでもむだでしょう。お帰りになって、死ぬのをお待ちなさい」

太った奥さんは、ガタガタ震えだしました。帰るとちゅうも、帰ってからも、死ぬことばかり考えつづけました。
もう、何も食べる気もしないし、夜も眠れません。
奥さんは、日ごとに、いいえ1時間ごとにやせていきました。
こうして7日間がすぎました。奥さんは覚悟を決めて、静かに横になり、死ぬのを待ちました。

ところが、いっこうに死にません。8日、9日すぎてもまだ生きています。
10日目になりました。奥さんはとうとう、がまんができなくなって、医者のところへ飛んでいきました。
すっかりやせた奥さんは、走ることができたのです。

「あなたは、何というヤブ医者なんでしょう。あんなにたくさんお金をとっておきながら、よくも私をだましましたね。7日間しか生きられないとおっしゃいましたが、10日もたったのに、この通りピンピンしているじゃないですか」

奥さんは、ものすごい勢いで、医者に文句をいいました。でも医者は、落ち着いたものです。

「ちょっとうかがいますが、あなたは今、太っていますか、やせていますか」

「やせましたとも。死ぬのが恐ろしくて、食べものだって、のどを通りませんでしたからね」

「そうでしょう。その恐ろしいと思う気持ちが、やせ薬だったのですよ。それでも、あなたは私をヤブ医者だとおっしゃるのですか」

奥さんは、はっと気がついて、笑い出しました。こうしてふたりは、仲良く別れたのでした。

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 4]

あるところに、3びきのカメの親子がいました。父さんガメと、母さんガメと、むすこのカメです。
ある晴れた日、遠くにある森へ、ピクニックに出かけることにしました。父さんガメが持ったバスケットには、サンドイッチと、いろいろなかんづめがはいっています。それまで食べたこともないようなごちそうばかりです。3びきは、歩いて歩いて、3年もかかって、やっと森へつきました。そして、バスケットのなかのごちそうを取りだすと、父さんガメがいいました。
「さあ、食べよう。母さん、かんきりを出しておくれ」
母さんガメは、バスケットをのぞいて、かきまわして、その次には、さかさまにひっくりかえしました。ところが、かんきりが出てきません。母さんガメは、こまった顔をして、いいました。
「かんきり忘れてきてしまったわ。すまないけど、ぼうやとってきておくれ」
「えっ、あんな長い道を、ぼくがとりにいくの?」
むすこは、びっくりしました。しかし、父さんガメに 「かんきりがないと、ごちそうもたべられないじゃないか。おまえがもどってくるまでサンドイッチも食べないで待っているから、すまないが行ってきておくれ」 といわれると、しかたがありません。
「じゃあ、ぼくがもどってくるまで、ほんとうに何も食べないって約束する?」 「ええ、約束しますよ」 「約束するさ」

むすこのカメは、まもなく、のそのそ、やぶのなかへ入っていきました。
父さんガメと母さんガメは、じっと待ちました。1年すぎて、すっかりおなかがすいても、約束だから待ちました。それから、もう1年たちました。さらに1年すぎると、がまんできないほどおなかがすいてしまって、母さんガメがいいました。
「サンドイッチをひとつずつ食べません? あの子にはわかりっこありませんよ」
父さんガメは、ちょっと考えていましたが、首をふっていいました。
「いやいや、約束したんだから、待ってなくっちゃ」
父さんガメも母さんガメも、身動きひとつしないで待ちました。
そして、また1年が過ぎ、さらに、また1年が過ぎました。
もう、おなかがすいてすいて、がまんができません。母さんガメが
「あれから、もう5年ですよ。もどってくるなら、もどってこないとうそですよ。サンドイッチを、ひとつずつ食べましょうよ」 というと、父さんガメも、 「そうだなあ、ひとつずつ食べるか」 と、いって、サンドイッチを手にとりました。もうちょっとでサンドイッチを口にいれようとしたとき、やぶの下から、かすれた声が聞こえてきました。
「ああ、やっぱりぼくをだますんだな」 むすこのカメの声です。
「ぼく、かんきりをとりにいかなくて、ほんとによかったな」

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