児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

セサミえいごワールド

家庭学習システム「セサミえいごワールド」という、完成度の高い子ども向英語教材を、無事制作し終えることができたのは、企画が持ち上がってから約2年半、まことにたくさんの人たちのねばり強い努力の賜物であった。発行元のNHKソフトウエア(現NHKエンタープライズ)のS氏を中心に、監修および編集を担当された緒方桂子さんとアシスタントの川口奈緒さん、当社の渋木国子の活躍なしでは生まれ得なかったといってよいだろう。

監修・編集を担当された緒方さんは、京都生まれ、ニューヨーク州立大学を卒業したバイリンガルで、文章を書いたり話したりすることでは日本語よりも英語のほうが得意というほどの使い手。帰国後、Yという大手英語教室立ち上げの頃の教材開発やしくみをこしらえたあと当時の同僚川口さんと独立、イラストレーター、翻訳家、ライターとして活躍。各種英会話教材のプログラムの開発、かずかずの日米共同プロジェクトに参画する一方、いずみ書房が販売を担当した、NHKソフトウエア発行「NHK英語であそぼ/ハローキッズプログラム」の総合監修・編集に当たられた方である。幼児英語教室の教師という現場を20年近く経験してきた川口さんとのコンビは見事で、まさに生きた教材づくりに、その経験と実力を存分に発揮できたに違いない。

当社の営業責任者だった渋木国子は、フジテレビの人気教育番組だった「ひらけ! ポンキッキ」教育セット、「らくらく英検英語くらぶ」、「NHK英語であそぼ/ハローキッズプログラム」など、幼児教育教材や子ども向け英語教材の開発から販売までを、いずみ書房創業期から30年近くも長い間たずさわってきた。二人の子どもを育ててきた経験を生かし、子育てまっ最中の若い母親と同じ目線に立ちながら、子育ての秘訣をわかりやすい言葉でしっかり話をし、的確にアドバイスすることで信頼を得てきた。電話ではあるが、おそらく、渋木ほどたくさんの母親と対話をした人はいないのではないだろうか。だから、そんな母親たちの教材に対する要望がよくわかるのだ。この「セサミえいごワールド」への思い入れも人一倍、これまでのどの教材にも負けない究極の教材にしたいと企画・編集にたずさわってきた。こだわる理由は、もうひとつあった。実は渋木が、2000年の春に、思っても見なかった「肺がん」に罹っていたことが判明したのだ。そのショックはどんなに大きなものだったか知れない。しかし、渋木は左肺下葉の切除の手術後、すぐに職場復帰して、この教材の編集に専念をはじめた。再発が確認されてからも、入院を伴う抗がん剤治療を一切拒否して、仕事にかかりきりになっていった。特に印刷物の校正に関しての厳しさは、鬼気迫るものさえあった。こうして2002年10月、完成につなげることができたのである。それから2年足らずの2004年9月に死去したが、この教材の編集に精魂こめたことは、仕事が大好きだった人の最後で、最大の仕事、まさに命をかけた大事業だったといえるだろう。



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幼児向とはいえ、英語の総合教材に絵辞典を欠かかすことができない。「セサミえいごワールド」の総合セットにも、絵辞典を組み入れてほしいと要望した。セサミワークショップの制作による「セサミストリートの絵辞典」英語版は、世界的に大ロングセラーをつづけていて、日本語版も偕成社から刊行されている。そのため、あまり手をかけることなく作れるだろうと思った。



しかし、「セサミストリート」と「セサミえいごワールド」は、カリキュラムも違うし、ねらいも違うということで、一から作らなくてはならないことが判明した。まず、日本で活躍する十数人のイラストレーターをピックアップして作品を添え、セサミワークショップ側に描き方のタイプがふさわしいかのチェックを受ける。最終的に6人に承認がおり、テーマ別に描いたラフ原稿を送る。チェックが入り、それを訂正したラフの第2稿を送る。時には第3稿、第4稿と続く。OKが出て初めてカラーのイラストにした正式の原画を送る。それをまたチェックといったことがくりかえされて、最終的なものとなるわけである。



結果的に、映像のエピソードに直結したテーマが50種類、単語総数約1400語が収録されることになった。今現在中学校の教科書に登場する基本単語が500余語、この基本単語を使用して教科書が作成されるが、文科省の検定を通っている7社の教科書すべてに登場する単語総数でも1100単語程度といわれるから、この「ピクチャー・ディクショナリー」の完成度をわかっていただけると思う。



たとえば、「わたしの顔とからだ」という見開きページには、forehead(ひたい) eyebrow(まゆげ) pointer(ひとさしゆび) pinky(こゆび) belly button(おへそ) ankle(あしくび)など、36種類も登場する。幼児向けとはいえ、日常生活をする上で不自由することのない単語はすべて収録しているわけである。しかも、50種のどのテーマにも、52話の映像のどのエピソードに登場するかを的確に示している。



さらに、すべての単語の音声をテーマ別にCDに収録した。総時間76分、ネイティブの朗読の後に自分でリピートできる間をおく工夫と、発音を妨げない程度にBGMを流して、あきさせない工夫もした。リピトカードの制作と並んで、「セサミえいごワールド」教材の中でも、もっとも時間と労力がかかったのは、そんな理由からだ。



昨日、一昨日と「セサミえいごワールド」の「リピートカード」300枚に関する記述をしてきたが、このカードの特長のひとつは「フォニックス」を取り上げたことである。フォニックスに関しては、最近の子ども向英語教材や、子ども英語教室には欠かせない存在になってきたが、意外にその本質を知っている人は多くないようだ。

フォニックス(音声法)とは、ことばのつづりと発音との関係を教える指導法で、イギリスやアメリカなど、英語を母国語とする国では、子どもたちに単語とつづりと発音の規則性を大変念入りに教える。このつづりと音のルールを教える「フォニックス」が、幼児から小学1、2年生の入門期における国語教育の中心になっているという。

たとえば、アルファベットの名称A、B、C、Dは「エィ、ビー、スィ、ディ」と発音するが、多くの単語は、appleの「ア」、book の「ブ」 clockの「ク」、dogの「ド」というように発音する。フォニックスのことを「アブクド」読みという人がいるが、そんな理由からだ。

AからZまで、アルファベット26文字のフォニックス読みを覚えただけで、英単語の6割近くまで読めるようになる。たとえば、yes, noの yes に初めてであったとしても、yは「イ」、eは「エ」、sは「ス」とフォニックス読みをするため、「イエス」と発音できるという具合である。英米の子どもたちが教わる「フォニックス」が10段階まであるとすると、アルファベット26文字のフォニックス読みが自在に出来て3段階程度、次の段階は、wa ea awというような、2文字の組み合わせ、age ail ack というような3文字の組み合わせを、約130種類学ぶことになる。これだけ学ぶと、8割程度の英単語に初めて出会っても、読んだりつづったり出来るようになるといわれている。

セサミえいごワールド」の「リピートカード」では、アルファベット26文字以外に、約90種類の2文字から3文字のフォニックス・サウンドを収録した。「セサミえいごワールド」の姉妹編「ステップアップカード」250枚を加えると、英米の子どもたちが学ぶ130種類すべてが身につくようにした。

アルファベット26文字を学ばせただけで、「フォニックスのすべてが学べます」をキャッチフレーズにした教材や英語教室がたくさんあるが、この点をしっかりふまえ、どのレベルまでのフォニックスを取り入れているかをチェックして、教材や教室選びをしてほしいと思う。

セサミリピートカードセサミえいごワールド」教材の中で、もっとも時間と労力がかかったのは300枚のリピートカードのほとんどに、映像で登場する単語や表現を連動させた点かもしれない。映像というのは次々にイメージや音声が流れていくだけに、視聴しているだけでは英語を身につけることはむずかしい。どうしても、日常よく使われる単語や表現を、くりかえし声に出すことが重要である。ネイティブと対話する感覚を体験することができれば申し分ない。その役割を担うのがリピートカードで、新開発した「トーキングリピーターDX」には、再生、録音、対話、リピートという4つの機能が搭載されているため、クリアな音声でくりかえすことはもちろん、対話の疑似体験を可能にした。リピートカードのような、くりかえし練習できるものが付帯されることは、幼児向けの英語総合教材には欠かすことが出来ない機能といってもよいだろう。

この教材を制作するに当たり、セサミワークショップ側では5名のスタッフがチームを作り、日本で制作したカード1枚1枚の内容やイラストをこまかくチェックして、問題のある箇所を指示してくる。あくまで映像が中心なので、カードとの連動にも当然こだわるわけだ。カードの表面には英語が、裏面には表面の日本語訳と解説がついている。この解説部分に、その単語や表現が、52話のエピソードの中の何番目の話に登場しているかを紹介する。

たとえば、「 fall winter 」のカードの裏面には英語の日本語訳「 秋 冬 」と書かれ、解説部分には「アメリカでは、9月が新学期。秋から新しい学年がスタートするんだ。ティンゴの学校の先生がやってくるのはエピソード33だね。寒くて、雪がよくふるのはどの季節? ティンゴがジェイクと雪の日に外へ遊びに行こうとするお話はエピソード31だよ」という具合である。さらにこのカードには、「*fall の別の言い方にautumn があります」というコメントも付いている。裏面を見ながらカードを溝に落としても、表面と同じ音声が流れるため、和文英訳遊びが楽しめるのも、このカードの特長といえるだろう。

さらにリピートカードに工夫が加えられたのは、子どもたちをひきつける擬音が加えられていること。「野球」のカードには、ボールを打った瞬間の音とそれに呼応した歓声が、「クッキー」のカードでは、クッキーを食べた時のカリカリ音が添えられるというふうに、すべてのカードに何かしらの音素材が挿入されている。購入者から、よくぞここまで考えてくれました、と礼状がとどくほどである。

「セサミストリート」が、テレビによる「子どもの学校」をめざした教育番組であることは、先に記述したが、「セサミえいごワールド」の映像も、同じような独創的なカリキュラムを基に制作されている。1話15分、全52話は、日本語も英語も話せる小学生の主人公ティンゴが、ニューヨークに住む女子高校生ニッキの家に1年間ホームステイし、さまざまな異文化交流をしながら成長していく楽しいストーリーとして展開される。

第1話では、ニッキの家についたティンゴがニッキの家族を紹介され、お父さん、お母さん、兄さん、妹と、「はじめまして Nice to meet you.」 というあいさつ、ノックの音に「どなた? Who is it? 」と、何度も同じことを繰り返すことにより、大切な会話表現がしっかり身につく工夫をしていることがよくわかる。また、とりあげるテーマも、1~8話は「親類や家族の友達」、9~16話は「動物やペット」、17~24話は「食事・食べ物」、25~32話は「天気・季節・時間」33~40話は「友達」、41~48話は「おもちゃ・ゲーム・スポーツ」というように、行動範囲が少しずつ広がり、ティンゴはたくさんの体験を重ねることによって社会性を身につけていく。49~52話は「思い出」として、1年間をふりかえることにより、過去形をさりげなく教えるという具合である。この映像は、日本で作られる多くの教材のように、ゆっくりとしたスピードで話されていない。まさに、ナチュラルスピードで生きた英語が話される。そのため、親向けにセリフのすべてを、ガイドブック7冊にして対訳で用意した。子どもたちの疑問にしっかり答えてほしいためである。さらに、各エピソードの合間に歌われるたくさんの歌は、子どもたちばかりでなく大人も充分楽しませてくれる。

この映像をくりかえし視聴することにより、実際に使われる状況の中で単語や表現に親しむ「導入」がなされることになる。次のステップとして「リピートカード」により、映像で親しんだ単語や表現を、自分でいってみたり、聞きなおしたり、会話のやりとりをしながら「練習」をする。仕上げは、ピクチャーディクショナリーやアクティビティブック、書きかたボードなどで、どのくらい単語や表現が身についたかをゲーム感覚で「確認」する。

セサミえいこワールド」のねらいは、この「導入」→「練習」→「確認」作業を何度もくりかえすことにより、子どもたちが、日本で生活しながら日本語と同じように生きた英語が話せるようになること、いわゆるバイリンガルとなることを目的としたプログラムなのである。

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