児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

2005年09月

前日に続き、「子どもワールド図書館」の刊行意図 (1980年当時) 3回目を採録してみよう。

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第二次世界大戦に敗れて打ちのめされた日本人には、進駐軍の何もかもが別世界のようでした。私自身も小中学生の頃、アメリカの兵隊たちが口にするチューインガムやチョコレートを、あこがれの目でみていたことを思いだします。洋画にみる欧米人のくらしぶりはまさにこの世のパラダイスでした。

それから35年以上経過した今日、まさに様相は一変しました。世界のあらゆる嗜好品を満喫し、日本の自動車などは世界の市場を支配しようとしています。そのためアメリカやヨーロッパでは、日本車等の流入を食いとめようと躍起になり、日本はもうけすぎだとあからさまに不平をいったりしています。しかし、そんな高い工業力はよく知られるようにはなっても、いったい日本人はどんな生活をしているのかというと、依然としてナゾの国のようです。それは、たとえば次のような教科書の記述にあらわれています。

日本の食事は米と魚がおもであり、ときどきさつまいもやあわがその代用とされる。肉を食べる家庭は少ない。(アメリカ・小学校用教科書)/日本人の大部分は村人で、アイヌ、黄色モンゴルらの子孫である。天皇は日本の支配者としての性格のほかに、神聖な方として民衆の信仰の対象になっている。(レバノン・中学生用)/道路はまだよくない。人々は電車か自転車または歩いて旅行する。(カナダ・高校生用)/日本人はほとんどまくらを使わない。ときどき低い丸い木の台をまくら代わりに使う。(スェーデン・小学生用)/日本でもっとも広く信仰されている宗教は、シントイズムという仏教である。シントイズムは日本の国教で、シントとは神々の道を意味する……。ゾウニ――米で作った一種の甘い焼きがし(イタリア・高校生用)/子どもたちは6年間の義務教育を受けるが、その後は学校に行かない。というのは高等学校へ行く余裕かないからだ。(アメリカ・中学用)…… 等など。
 
上述のような記述の説明についている写真やさし絵も、むかしの中国ともつかない着物を着た女性が田植えをしている姿だったり、日本の代表的な女性の写真が芸者だったり、左手の指が6本もある豊臣秀吉の肖像画 (説明にもそうある)、足袋のことなのか2本指のストッキングでゲタをはいている姿(ソビエトの絵本)など。こうしたあやまりは教科書ばかりでなく、アメリカやイギリスなどの先進国の百科事典にも、日本を誤解させるタネはたくさんころがっています。たとえば、フグは、自殺するために食べる。/力士は、何代にもわたって相撲とりを職業とする人。/足袋は、婦人用もめんのストッキングで指が10本ある……。

キリがないのでこの辺にしておきますが、昔は日本というと「フジヤマ、芸者、さくら」というイメージでした。ところが最近になって、急に外国の日本人観も変わりはじめました。むしろ公害とかモーレツ会社員といった方が評判になり、「ウサギ小屋の働き中毒」といったような非難や新たな誤解のタネを生みだしています。

昨日に続き、「子どもワールド図書館」の刊行意図(1980年当時)2回目を採録してみよう。

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私どもが編集面で心がけてきたもうひとつのポイントは、片寄りのない記述、そこに住む人たちの側に立った記述ということでした。

通信や交通手段等の発展によって、たしかに地球は狭くなっています。しかし、情報面での片寄りには大きな問題があります。それは、世界のニュースの大部分がロンドン、パリ、ニューヨークを通じて行なわれているからで、AP、UP、ロイター、AFPといった大通信社が情報の80%近くを独占しているといわれています。したがって、米英仏等の欧米先進国に都合の良いニュースが流れ、私たちの考え方そのものも、その情報によって歪められているかもしれません。従来あまり重要視されなかった国々にもできるだけ焦点を当てようとしたのは、そんな理由からでした。

中国、朝鮮、東南アジア、西アジアなどのアジア諸国、アフリカ、ラテンアメリカ諸国にも多くのスペースをさいたのをはじめ、私たち資本主義国とはなじみのうすいソビエト、東ヨーロッパ諸国などの社会主義諸国のくらしぶりについても、出来るだけ詳しく紹介するように努めました。

「西アジア」 も力を入れた巻のひとつです。それは、この地方が、私たちにはなじみのうすいイスラム諸国とユダヤ教の国イスラエルがあり、キリスト教信者も多い複雑な地域である上、オイルショックの引き金ともなったところだけに、慎重にしかも問題点がどこにあるのかを明確にとりあげなくてはならないと考えたからです。じっさい私たちは、石油危機のおかげで、中東諸国の存在に気づいたといってもよいでしょう。

地球上には8億人ものイスラム教徒がいて、1日に5回聖地メッカにむかって拝み、禁酒や断食によって心身の節制を守っていると聞いても、そんな国があるのだなどと思うくらいのものでした。しかしその行ないも、苛酷な大自然の中から逃れられない人々の生への願望であり、超大な大自然への畏敬の念でもあったに違いありません。

私たち日本人の多くの人たちの世界地図には、アメリカや西ヨーロッパなどの近代的な大国しか描けず、これらの国々と肩を並べることばかり考えていたといってはいいすぎでしょうか。たしかに戦後の世界は、北半球にある先進諸国と呼ばれる国ぐにによって、軍事的にも政治的にも経済的にも支配されてきました。しかし、こうした世界の構造を根本的にくつがえそうとしたのが中東の石油でした。1970年代の主役は核兵器から石油にとって変わり、80年代の世界はこの石油によってつくり変えられようとしています。

イラン革命で突如あらわれたホメイニ師を、中世からあらわれたドンキホーテとこきおろす人が多いようですが、やり方はかなり荒っぽいけれど、耳を傾けるべき発言に注目する必要があります。たとえば、北側諸国の繁栄は南の資源の略奪によって生れたとか、南側の国々が発展する道は北側の先進国が歩んだ道をたどることではなく、固有のイスラム文明による独自の発展をめざせと説いて、多くの国民の支持を得ているという事実です。

私たちは毎日、新聞の紙面からあるいはテレビの画面などを通じて、国際情報を北側の眼でみているはずです。しかし、この情報がそこで生活する人々にとってどういう意味なのかという視点、これまでの見方プラスもう一枚の世界地図を描かなくてはならないのではないでしょうか。それは、国際理解の本質が、そこに住む人たちを思いやる精神にあると思うからです。

「いずみ書房」では、ポケット絵本シリーズの第2期「こども科学図書館」を刊行した1978年4月から「いずみ通信」という社内報を毎月発行し、主として全国の第一線で活躍する営業マンに会社の方針を伝えたり、相互のコミュニケーションをはかるなど、組織を維持するための努力をし続けてきた。「子どもワールド図書館」を刊行した1980年当時、このシリーズの刊行意図を「いずみ通信」で伝えた。記述内容に今の時代にそぐわない部分もあるが、基本的な趣旨にブレはないので、何回かに分けて採録してみよう。

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今日ほど、国際理解の必要な時代はないといわれています。それは、いったいどういう理由からなのでしょう。

私たちが毎日生活しているところは、日本の国のある一部で、世界全体からみれば限られたほんの小さな地域にすぎません。しかし、この地球上には160を越える国があって、45億人もの人々が、それぞれの生活を営んでいます。これらの人々も、むかしは他の国、他の地方の人々とは交わることもなく、自分たちだけで暮らしていたといってよいでしょう。

しかし、いまの世の中では、世界中の国々が、それぞれお互いに深い結びつきをもっています。ちょっと身のまわりを見わたしても、パンの原料となる小麦、あるいは砂糖、綿や羊毛など、たくさんのものが海を越えた遠い国から輸入されています。工業に欠くことのできない石油をほぼ100%輸入していることは広く知られていますが、食料でさえも50%以上も輸入に頼っているのが現実です。

卑近な例でいうなら、日本独特の料理である天ぷらソバをみてみましょう。ソバの原料となるソバ粉の大部分は、カナダやブラジル、中国からの輸入です。つゆの味をつける醤油の原料となる大豆はアメリカなどから、天ぷらのコロモとなる小麦はアメリカやカナダからやってきます。さらに薬味のトウガラシも中国からの輸入だし、エビもまた北太平洋やインド洋からとれたものが大部分といったように、その原料はほとんど日本国内だけでは手に入らないというのが実情なのです。

いっぽう、日本で作られた自動車やカラーテレビ、時代の最先端をゆくビデオテレビ、織ものや機械類がどんどん外国に輸出されています。お隣りの韓国や中国、東南アジアの国々をはじめ、日本とちょうど地球の反対側にある南アメリカや、独立して間もないアフリカの国々の人々が日本製の織ものをまとい、トランジスターに耳を傾け、子どもたちもまた日本製のオモチャで遊んでいるのです。計算に弱いといわれたヨーロッパ人が、日本製の電卓を使ってテキパキとさばいていることを耳にすることは、愉快なことでさえあります。 

外国との結びつきは、こうした品物ばかりではありません。外国のすすんだ科学やすぐれた芸術などは、わたしたちの生活をどれほど豊かなものにしてくれているか計りしれません。似たようなことは世界のどんな国についてもいえることで、政治や経済のしくみ、発展の程度に大きな違いはあっても、それらを乗りこえて協力しあわねばならない理由はそんなところにもあります。

ところが、国際情勢に目を向けると、昔ながらに国と国との利害がはげしく衝突し、いまだに戦火の絶え間がなく、今朝もテレビがアメリカの対イラン国交断絶という暗いニュースを伝えています。悲惨な二度の世界大戦を経験してきた世界の人々は、かりそめにも三度目の世界大戦などあってはならぬことと深く自戒し、平和を求める声も高まってはいます。しかし、火種は世界の至るところに存在しているというのが現状です。核兵器やミサイルのように前二回の大戦当時とは、比較にならないくらい兵器の発達した現在、たとえばアメリカは現在、広島に落とされた原爆の61万5000発分をこえる核兵器を持ち、ソビエトはそれにもまさる規模の核兵器を持っているだろうといわれています。万が一、世界大戦がおころうものなら、今度こそ間違いなく人類滅亡をまぬがれません。

つまり、世界の平和が維持されるための第1条件が国際理解ということだといえましょう。平和であるからこそ国々との間の貿易が可能になり、日々の生活が可能になるのです。自分ひとりのカラに閉じこもることなく、世界の国々について広い認識と理解を持つこと、それこそが世界平和の出発点となるはずです。

いっぽう、子どもの本の世界一盛んな国である英国に目をやると、マクドナルド・エデュケーショナル社をはじめ、さまざまな出版社がこの種のシリーズを刊行している。ここでも、同じ島国でありながら世界を見据える視野の深さ、国際社会への理解の違いというものを強く感じたものだった。そんな英国でも、マクドナルド社は一歩先んじているようで、幼児向に Places というジャンルがあって、世界の主だった国20ヵ国を1ヵ国1冊で刊行している。さらにこの出版社では、小学校上級以上を対象にした Countries シリーズも刊行していて、このシリーズの一部は、ポプラ社が翻訳出版を開始していた。

当初は、世界の国々をわかりやすく幼児向に紹介したシリーズを構想していたが、何人かの幼児や小学生を持つ親、あるいは先生方と話をしている中で、教育熱心なわが国の情況を考えた時、学習に役立つ工夫をこらす必要性を感じた。その結果、次の5つの特色を打ち出すことにした。

(1) 21世紀に活躍を期待される子どもたちに、世界を見つめる広い視野を育てる。

(2) 世界主要100ヶ国の社会や文化、風土や歴史を、それぞれの国や民族の立場にたって公正な眼でとらえる。

(3) 社会、地理、歴史など、小中学校の教科書に登場する重要テーマを網羅する。

(4) 2000点を超えるイラスト、簡潔な記述など、子どもたちが世界に親しみを感じるためのさまざまな工夫をする。

(5) 国際感覚を身につけるには世界の中の日本をしっかり知る必要があるため、日本の現状を地方別に7冊に分けて明確にとらえる。

1980年に出版した「子どもワールド図書館」の刊行の動機は、割と単純な発想からだった。わが子とテレビを見ながら考えたことなのだが、当時「世界名作劇場」という番組があり日曜日の夜7時30分から30分間、フジテレビで放送されていた。「アルプスの少女ハイジ」とか「母をたずねて三千里」、「あらいぐまラスカル」「ぺリーヌ物語」「フランダースの犬」「トムソーヤの冒険」といった世界各地を舞台にした良質で楽しいアニメを子どもたちは夢中になって見ているわけで、それがおとなにも面白い。

「アルプスの少女ハイジ」は、スイスのアルプスとドイツのフランクフルトを舞台にした話だし、「母をたずねて三千里」では、イタリアのジェノバにはじまって、アルゼンチンのブエノスアイレスからコルドバまでを旅する話だ。そういう地理的な背景がわかれば、さらに感銘の深い話としてとらえることができるのではないか、そして物語の舞台となっているさまざまな国や各地方、各都市の表情がわかればなお印象的だし、そこに住む人たちも自分たちと同じように毎日の生活を営んでいるのだという広い世界を自覚し、ひいては国際感覚を身につけさせるよいチャンスだと考えたわけである。

そこで、そういう刊行物を求めて書店や図書館をたずねてみた。ところが、そこにあるのはいわゆる旅行ガイドブックの類かおとな向の文化誌くらいしかない。子ども向きのものはせいぜい中学生向の「世界地理」の副読本がせいぜいといった状態だった。

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