児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

2005年08月

1977年3月22日に行われるという公開入札の案内を受け、事前に「ポケット絵本」の買戻しができないかを交渉するため、J・チェーンの破産管財人の事務所を訪れた。

K管財人は、当社の2500万円にも上る債権額に理解を示してくれはしたが、破産管財人の使命は、いかにJ・チェーンの資産を高く売り払い、債権者に分配できるかというところにあるという。入札以前に買い取るということであれば、在庫数の把握は完全にはできていないが、1セット(4巻組)100円程度は用意してもらわなくてはならないという。10万セットあるとすると、1000万円にもなる数字だ。不渡手形をつかまされた上に、在庫を買い取らねばならないとは、何と不本意なことだろう。

銀行からの新たな借り入れは、すでにことわられている。公開入札まで待ち、当社が、たとえば管財人の買戻し提示額の2分の1に当たる500万円で入札したとしても、どこかの業者がそれ以上の金額で入札したとすれば、当然当社の権利はなくなってしまう。公開入札の情報を得て、それを安く買って売りさばくことを目的とした業者が数多く存在するようで、そんな業者に買い取られてバッタ売りされでもしようものなら、販売組織の壊滅は目にみえている。しかも、500万円の入札資金さえ用意できるかどうかわからない。何とも、なさけない情況に陥ってしまった。

J・チェーンが1976年11月に倒産したことは以前触れたが、倒産というのは通常、不渡り手形を2回出すことにより、銀行取引が停止されることをさす。その後、債権者や株主などが利害を調整しながら会社更生の道をたどるか、会社を整理する道(和議)か、破産に向かう。

破産とは、債務者が経済的に破綻してしまい、その弁済能力では債務を完済することが無理となった場合、強制的に債務者の全財産を裁判所が管理し、すべての債務者に公平に分配する裁判上の手続きをいう。債務者自らが破産宣告を裁判所に申し立てる場合(自己破産)と、債権者が破産宣告を申し立てる場合とがある。

J・チェーンは自己破産を裁判所に申し立て、それを受理した裁判所は破産宣告し、破産管財人が指名されたという。破産管財人は、すぐに債務者(破産者)に提出させた書類などをもとに債権者を特定し、破産宣告時に所有していた財産を占有管理することになる。

破産管財人は、債権者集会を開き、調査結果を債権者に報告する。債権者に異議のない場合は債権を確定、財産を入札や競売するなどして売り払って資金にし、その資金から未払いの税金、未払い給与、管財人の手数料などを差し引いた分を、債権額に応じた率で支払いを行って終結する。

当社の債権額2500万円は認められたが、J・チェーンの1000名を超える加盟店も債権者に入るため、債権者に分配される資金はほとんどないようだ。そんな資金を当てにはしていないが、困った問題はJ・チェーンに納品した「ポケット絵本」の在庫のことである。4巻組セットが10万セット前後もあるという。管財人からの案内によると、1977年3月22日に公開入札を行うようだ。もし、当社の入札額より高い金額を提示する業者が現れたとしたら、順調に育ちつつある販売組織が壊滅しかねない。頭の痛い難問が急浮上してきたのである。

19日、「ポケット絵本」(現「せかい童話図書館」)に対し、各界の有名人7名から推薦文をいただいたと記したところ、具体的にどんな内容だったのか、という問い合わせを何人かからいただいた。そこで、その全文を掲載してみることにする。

既成絵本への大胆な挑戦 文芸評論家・山室 静
このシリーズは、従来の絵本に対する大胆な挑戦だ。子どもを甘やかさない欧米の絵本の伝統を日本に移しかえて成功しているといえる。原作にわりと忠実だから、子どもたちはもちろん、大人にも充分鑑賞に値すると思う。

私の方が夢中になる 歌手・加藤 登紀子
全40巻を娘に与えたら、もう気が遠くなるほど大喜びで、少しおねえさんぶってカバンに入れてみたりひとりでよんでみたり、このポケット絵本と仲よくやっています。夜になるとせがまれてよんでやるのですが、読んでるうちに私の方が夢中になったりするのです。

プレゼントしたくなる絵本 作曲家・高木 東六
装ていといい、サイズといい、品のあるシャレた本ですね。ほとんど20代の絵かきさんのイラストなんですか。ハツラツとした若さがみなぎっていて、若い女性にプレゼントしたくなるようなステキな本ですね。(談)

仲良しの本に 詩人・高田 敏子
幼いころの感動は、いつまでも心に生きつづけます。こどもたちに、ぜひすぐれた絵本を与えましょう。名作の味が生かされたポケット絵本シリーズをおすすめします。どこにも持ってゆけて仲良しの本になることでしょう。

暖かい心づかいとやさしさ 参議院議員・田 英夫
ますます複雑化する社会の中にあって、わたしたちは暖かい心づかい、やさしさを忘れかけているようだ。この絵本は、そんな人間としてもっとも大切なものをじっとみつめようとしている。

子どもたちに夢と希望を 女優・寺島(藤) 純子
私の子どもは絵本が大好きです。本箱に入りきれないほど沢山あるのですが、ポケット絵本はコンパクトな上、内容も子どもが喜ぶ物語でいっぱいなので一番のお気に入りです。母子のスキンシップのひとつとしてぜひおすすめしたいものです。

三拍子そろった好企画 全国学校図書館評議会理事・甲斐 清通
最近のこどもの本の大型化、値上がりはとどまるところを知らない。こんな時に廉価で良心的な絵本シリーズが刊行されたことは喜ばしい限りだ。新鮮な編集、生き生きと語りかける絵、明快な文――三拍子そろった好企画。編集者の苦心がうかがわれる。

いずみ書房独自のフランチャイズ販売組織の告知は、口コミによる他に、当時ダイヤモンド社が発行していた月刊雑誌「セールス」に1ページ広告を掲載して公募を開始した。手元に1977年の2月発売号の掲載広告があるが、次のようになっている。

ただ今、全国60支社長募集中(募集地区を明記)。1976年11月募集開始、たちまち11地区の支社(神奈川・栃木・長野・宮城・南茨城・北茨城・東京多摩・東千葉・山口)決定。チャンスは今です。加盟料不要、保証金1地区わずか30万円、当社の将来性をみきわめ、参加の余地があるうちにお申込み下さいとし、神奈川支社長W氏の次のコメントを掲載した。

20数年間にわたり、100種類以上の本のセールスをしてきたが、わずかなセールス時間で1日10件も申し込みのとれる、しかもお客様に喜ばれ利益率の高い商品に出合ったのははじめてだ。2、3日テストセールスをしてみて「これだ!」と思い、即刻神奈川県内3地区の契約を済ませた。重いカバンも必要なく、まさに「ポケット」に見本を入れ、軽装で出かけられるのも魅力だ。

さらに、[近日完成]として、ビデオ絵本「せかいのどうわ」(全10作・制作ソニー)、[企画進行中]として、第2期「こども科学図書館」(40巻)、第3期「こどもワールド図書館」とある。さらに、「各界の有名人も絶賛の声」として、次の7名の方々の「ポケット絵本(現「せかい童話図書館」)への推薦文」を掲載している。

文芸評論家・山室静、歌手・加藤登紀子、作曲家・高木東六、詩人・高田敏子、参議院議員・田英夫、女優・寺島(藤)純子、全国学校図書館協議会理事・甲斐清通[敬称略]。ほとんどが社会思想社時代に出版でお世話になった方々だか、絵本の献本をしただけで、よくぞこれだけの推薦文をいただけたものだと、今さらながら感心する。

今や世界的な電機メーカーとなった「ソニー」が、1976年に家庭用ビデオテレビを発売した。定価228,000円は、決して安い価格ではなかったが、100万円以上もした業務用に比べると格段に安くなったことから、マスコミでの報道や、莫大な広告費を投入してのPRも過熱していた。そのソニーが、当社の「ポケット絵本」をビデオソフトにしたいと、ソニー傘下のプロダクションを通じて要請してきたのである。絵本の原画を貸し出すだけで、すべてプロダクションの負担で制作するという。うまくいけば当社の宣伝になるかもしれないと直感し、この話に乗ってみることにした。

「ポケット絵本」40巻のうち、ビデオ絵本に制作しやすい10巻が選定され、プロのナレーターの朗読にあわせ、原画の絵をアップにしたりロングにしたり、動かしたりと、いろいろ変化をつけながらうまく作品に仕上げてくれた。全5巻、1巻に2作品、視聴時間各30分として完成したが、販売するとなると1巻の定価が15,000円になる。とても個人が購入できる価格ではなく、幼稚園などに働きかけ、「100名以上の予約がとれたら寄贈します」といったキャンペーンを打ち出したが、ほとんど計画倒れに終わってしまった。

しかし、無名の出版社の絵本シリーズが、ビデオ絵本になったということは結構大きなインパクトとなり、いずみ書房のフランチャイズ販売組織拡大の要因になったことは確かである。

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