児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

2005年07月

三鷹市が、絵本をテーマにこれまでにない「絵本館」構想をしているという。絵本と長くかかわってきた私の経験が生かされるかもしれないということで、たまたま市報に載っていた公募ワクに応募したことを6月29日のブログで綴った。その後、いろいろな人から「絵本館構想」はどうなったかと聞かれるので、その結果をお知らせする。実は去る13日に、次のようなメールが届いた。文面は、次の通り。

「絵本館構想検討会議の市民公募に22件の申込をいただき、ありがとうございました。7月12日午前11時に厳正な抽選をおこない、委員を確定いたしました。残念ながらご希望に添えない結果となりましたことをおしらせいたします。今後とも、よりよい絵本館(仮称)にご理解とご協力をお願いいたします。三鷹市役所 生活環境部 コミュニティ文化室絵本館」

3名の委員のワクに22名の応募があり、抽選により落選したという通知である。義姉の勧めもあり、私は「課題文」を綴り、経歴書もそえて最善をつくしたつもりだった。内容をチェックした上での選抜であれば納得がゆくが、くじ引きのような抽選の結果だという。不慣れなボランティア活動をしなくても済んだことでホッとした反面、割り切れなさを感じたことも事実である。

私が「絵本館」委員に選ばれたら、こういう提案をしたいと考えていた。その骨子は次のようなものである。

現在当社では、イギリスとアメリカにある大手児童出版社十数社と取引している。そのため、欧米の出版社が刊行する新刊絵本に毎日のように出会う。いつもため息をついてしまうのは、興味深い絵本がこんなにもたくさん出版されているのに、日本語版として刊行されるのは、ほとんどないという事実である。こんなもったいないことはないのではないか。これらを輸入して展示することだけでも、革命的なことではないのか。

山梨県小淵沢市に「えほん村」という絵本美術館がある。ここでは、日本で出版されていない質の高い絵本を手に入れ、ボランティアの人が日本語訳をつけて展示していた。私は2、3年前にこれに出会ったときから、規模はごく小さなものだったのは残念だったが、試みとしてはとても面白いと感銘したことがある。

当社が取引している欧米の出版社は、世界的な規模から見ればごく小さなものだ。もっと広く世界を見れば、それこそ何百という出版社が、おびただしいほどの絵本を刊行している。それらを専門家が選定して輸入する。英語だけでなく、フランス語、ドイツ語など世界の言語の堪能な方をボランティアとして登録してもらい、選定された絵本を翻訳してもらう。

三鷹市という公的なレベルでこれを遂行したなら、必ず日本中が、いや世界が注目する事業にすることができるだろう……と。夢想だけで終わらせたくない構想だ。

6月17日、20日のブログで紹介した「キャメロン会」のホームページがリニューアルされた。開いた途端に私の兄猛夫(ペンネーム/とお・はじめ=リンクしている「ブログ」ものぞいてみてください)の作詞、私の作曲した「キャメロン高原讃歌」のメロディが流れるようになっている。「キャメロン会の活動」を選び、「キャメロン高原讃歌」をクリックすると、こんどは歌詞があらわれ、(1)長調・歌唱入 (2)短調・歌唱入 (3)長調・カラオケ (4)短調・カラオケ が選べるので、ぜひお試しください。私の歌唱はともかく、ASORAというプロの編曲者の手にかかると、ここまで完成度の高いカラオケができあがるのかということを知るだけでも、「のぞいてみる価値あり」です。

現在私は、妻・国子の一周忌にむけて、追悼集に付属するCD2枚組の制作にはげんでいる。ASORAのアレンジによるカラオケの制作を終え、スタジオ録音を残すのみとなった。兄の作詞・私の作曲は「キャメロン高原讃歌」を含め14曲、私の作詞・作曲が4曲、計18曲になる見通し。はたしてどんなものが出来上がるか、自分でも楽しみだ。

家庭学習システム「セサミえいごワールド」という、完成度の高い子ども向英語教材を、無事制作し終えることができたのは、企画が持ち上がってから約2年半、まことにたくさんの人たちのねばり強い努力の賜物であった。発行元のNHKソフトウエア(現NHKエンタープライズ)のS氏を中心に、監修および編集を担当された緒方桂子さんとアシスタントの川口奈緒さん、当社の渋木国子の活躍なしでは生まれ得なかったといってよいだろう。

監修・編集を担当された緒方さんは、京都生まれ、ニューヨーク州立大学を卒業したバイリンガルで、文章を書いたり話したりすることでは日本語よりも英語のほうが得意というほどの使い手。帰国後、Yという大手英語教室立ち上げの頃の教材開発やしくみをこしらえたあと当時の同僚川口さんと独立、イラストレーター、翻訳家、ライターとして活躍。各種英会話教材のプログラムの開発、かずかずの日米共同プロジェクトに参画する一方、いずみ書房が販売を担当した、NHKソフトウエア発行「NHK英語であそぼ/ハローキッズプログラム」の総合監修・編集に当たられた方である。幼児英語教室の教師という現場を20年近く経験してきた川口さんとのコンビは見事で、まさに生きた教材づくりに、その経験と実力を存分に発揮できたに違いない。

当社の営業責任者だった渋木国子は、フジテレビの人気教育番組だった「ひらけ! ポンキッキ」教育セット、「らくらく英検英語くらぶ」、「NHK英語であそぼ/ハローキッズプログラム」など、幼児教育教材や子ども向け英語教材の開発から販売までを、いずみ書房創業期から30年近くも長い間たずさわってきた。二人の子どもを育ててきた経験を生かし、子育てまっ最中の若い母親と同じ目線に立ちながら、子育ての秘訣をわかりやすい言葉でしっかり話をし、的確にアドバイスすることで信頼を得てきた。電話ではあるが、おそらく、渋木ほどたくさんの母親と対話をした人はいないのではないだろうか。だから、そんな母親たちの教材に対する要望がよくわかるのだ。この「セサミえいごワールド」への思い入れも人一倍、これまでのどの教材にも負けない究極の教材にしたいと企画・編集にたずさわってきた。こだわる理由は、もうひとつあった。実は渋木が、2000年の春に、思っても見なかった「肺がん」に罹っていたことが判明したのだ。そのショックはどんなに大きなものだったか知れない。しかし、渋木は左肺下葉の切除の手術後、すぐに職場復帰して、この教材の編集に専念をはじめた。再発が確認されてからも、入院を伴う抗がん剤治療を一切拒否して、仕事にかかりきりになっていった。特に印刷物の校正に関しての厳しさは、鬼気迫るものさえあった。こうして2002年10月、完成につなげることができたのである。それから2年足らずの2004年9月に死去したが、この教材の編集に精魂こめたことは、仕事が大好きだった人の最後で、最大の仕事、まさに命をかけた大事業だったといえるだろう。



346269f8.jpg
幼児向とはいえ、英語の総合教材に絵辞典を欠かかすことができない。「セサミえいごワールド」の総合セットにも、絵辞典を組み入れてほしいと要望した。セサミワークショップの制作による「セサミストリートの絵辞典」英語版は、世界的に大ロングセラーをつづけていて、日本語版も偕成社から刊行されている。そのため、あまり手をかけることなく作れるだろうと思った。



しかし、「セサミストリート」と「セサミえいごワールド」は、カリキュラムも違うし、ねらいも違うということで、一から作らなくてはならないことが判明した。まず、日本で活躍する十数人のイラストレーターをピックアップして作品を添え、セサミワークショップ側に描き方のタイプがふさわしいかのチェックを受ける。最終的に6人に承認がおり、テーマ別に描いたラフ原稿を送る。チェックが入り、それを訂正したラフの第2稿を送る。時には第3稿、第4稿と続く。OKが出て初めてカラーのイラストにした正式の原画を送る。それをまたチェックといったことがくりかえされて、最終的なものとなるわけである。



結果的に、映像のエピソードに直結したテーマが50種類、単語総数約1400語が収録されることになった。今現在中学校の教科書に登場する基本単語が500余語、この基本単語を使用して教科書が作成されるが、文科省の検定を通っている7社の教科書すべてに登場する単語総数でも1100単語程度といわれるから、この「ピクチャー・ディクショナリー」の完成度をわかっていただけると思う。



たとえば、「わたしの顔とからだ」という見開きページには、forehead(ひたい) eyebrow(まゆげ) pointer(ひとさしゆび) pinky(こゆび) belly button(おへそ) ankle(あしくび)など、36種類も登場する。幼児向けとはいえ、日常生活をする上で不自由することのない単語はすべて収録しているわけである。しかも、50種のどのテーマにも、52話の映像のどのエピソードに登場するかを的確に示している。



さらに、すべての単語の音声をテーマ別にCDに収録した。総時間76分、ネイティブの朗読の後に自分でリピートできる間をおく工夫と、発音を妨げない程度にBGMを流して、あきさせない工夫もした。リピトカードの制作と並んで、「セサミえいごワールド」教材の中でも、もっとも時間と労力がかかったのは、そんな理由からだ。



昨日、一昨日と「セサミえいごワールド」の「リピートカード」300枚に関する記述をしてきたが、このカードの特長のひとつは「フォニックス」を取り上げたことである。フォニックスに関しては、最近の子ども向英語教材や、子ども英語教室には欠かせない存在になってきたが、意外にその本質を知っている人は多くないようだ。

フォニックス(音声法)とは、ことばのつづりと発音との関係を教える指導法で、イギリスやアメリカなど、英語を母国語とする国では、子どもたちに単語とつづりと発音の規則性を大変念入りに教える。このつづりと音のルールを教える「フォニックス」が、幼児から小学1、2年生の入門期における国語教育の中心になっているという。

たとえば、アルファベットの名称A、B、C、Dは「エィ、ビー、スィ、ディ」と発音するが、多くの単語は、appleの「ア」、book の「ブ」 clockの「ク」、dogの「ド」というように発音する。フォニックスのことを「アブクド」読みという人がいるが、そんな理由からだ。

AからZまで、アルファベット26文字のフォニックス読みを覚えただけで、英単語の6割近くまで読めるようになる。たとえば、yes, noの yes に初めてであったとしても、yは「イ」、eは「エ」、sは「ス」とフォニックス読みをするため、「イエス」と発音できるという具合である。英米の子どもたちが教わる「フォニックス」が10段階まであるとすると、アルファベット26文字のフォニックス読みが自在に出来て3段階程度、次の段階は、wa ea awというような、2文字の組み合わせ、age ail ack というような3文字の組み合わせを、約130種類学ぶことになる。これだけ学ぶと、8割程度の英単語に初めて出会っても、読んだりつづったり出来るようになるといわれている。

セサミえいごワールド」の「リピートカード」では、アルファベット26文字以外に、約90種類の2文字から3文字のフォニックス・サウンドを収録した。「セサミえいごワールド」の姉妹編「ステップアップカード」250枚を加えると、英米の子どもたちが学ぶ130種類すべてが身につくようにした。

アルファベット26文字を学ばせただけで、「フォニックスのすべてが学べます」をキャッチフレーズにした教材や英語教室がたくさんあるが、この点をしっかりふまえ、どのレベルまでのフォニックスを取り入れているかをチェックして、教材や教室選びをしてほしいと思う。

↑このページのトップヘ