国文学雑誌『むらさき』昭和11年 (1936年・中也29歳) 10月号に寄せた作品で、中也は女性読者を意識し、わかりやすい言葉づかいで、平易に表現しました。


秋空に赤トンボが飛びかう野原を、淡い夕日が照らしている。遠くに工場の煙突がかすんで見える。僕は大きなため息をつき、しゃがんで石を拾う。石が手中であたたまると、今度は草を抜く。草は土の上でほのかにしおれていく……。

ただそれだけの情景で、僕はなぜため息をつくのか、なぜ石を拾って手で暖めるのか、ぬいた草はしおれていくのかといったことは詩の裏側に隠されています。

中也の死の翌年に刊行された詩集『在りし日の歌』は、「在りし日の歌」42篇と「永訣の秋」16篇に分かれていますが、この詩は「在りし日の歌」の最後のしめくくりとして置かれていることから、中也の「人生の夕暮をうたった詩」と解釈するのが適切のような気がします。