ポッカリ月が浮かぶ静かな宵、小舟を浮かべる若い男女。ヒタヒタ打つ波音や櫂からしたたる水の音、頭上の月に照らされて、熱い口づけをする二人……。ここちよいリズムと言葉まわしの見事さ、甘美なやるせなさがが伝わる名品として人気があります。


この詩は、当時中也が愛読していた「ハイネの詩」や、西条八十の童詩「金糸雀(カナリヤ)」などをヒントに、中也独自の幻想的な世界を創りあげたと想像されます。「……でしょう」という願望めいた語調から、中也が夢見ていた甘美な愛の世界だったのかもしれません。

制作されたのは、 昭和5年6月で、中也が中心になっていた同人詩『白痴群』が廃刊になった時期です。この詩には、長谷川泰子との間に希望がふたたび芽生えたなら、こんな情景を中也は空想しただろうと思う人が多いようで、それがこの詩に普遍性をもたらすのかもしれません。『桐の花』1930年(昭和5年・中也23歳) 8月号に掲載されたのが初出です。

長調から短調へ、また長調へといったメロディづくりに工夫をしてみました。