中也が亡くなる1年前の1936年(昭和11年・中也29歳)
11月に、長男文也は小児結核で死去しました。中也はその死にショックを受けて神経衰弱に陥り、入退院をくりかえしました。この2篇もそんな中で作られた作品です。

この詩にある世界は、この世ではなく、あの世なのでしょう。死んだ児は亡くなった長男文也のはずですが、この表現もランボーの詩「少年時」に出てくる「薔薇の木蔭に死んだ児がいる」の表現と重なったとみるのが妥当でしょう。なお、チルシスとアマントは、共にギリシャ・ローマ神話に登場する牧人で、ベルレーヌの詩「マンドリン」には気楽な人物として登場しています。

先に紹介した中村稔『中也のうた』には、「実在するのは月光だけであることを知っていながらも、月光と同様、死児もチルシスもアマントも彼の眸には映っている。詩人は狂気に向かうより他ない」と記述しています。