たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 58]

むかしあるところに、とてもけちな男がいました。いつまでたっても、嫁さんをもらわないので、知り合いたちは心配して「いいかげんに、嫁をもらったらどうだ」といいました。すると男は、「もらってもいいが、ものを食わない女がいたら世話をしてくれ」といいました。みんなはあきれて、もうだれも、嫁の話はしなくなりました。

ある日のことです。この男の家に、髪の長い美しい女がたずねてきて、一晩泊めてくれないかといいます。「泊めるのはいいが、あんたに食べさせるものはないよ」というと、「私は、ものを食べない女です」「ほんとに、何も食べないのか?」「はい、これまでに、ものを食べたことがございません」

こんな女なら、嫁にしたいものだと思っていると、女は朝ごはんの用意や、家のあとかたずけまで、てきぱきとやってくれます。男はすっかり気に入って、嫁にもらうことに決めました。(まったくいい嫁をもらったものだ)と、さっそく友だちのところへ行って自慢をしました。「ものを食わない女なんて、そいつは人間じゃない。しっかりしないと、今にひどい目にあうぞ」「ばかをいえ、うちの女房がきれいなので、うらやましいんだろ」と、男は腹をたてて、帰っていきました。

ところが、不思議なことがおこりました。嫁さんはものをひと口も食べないはずなのに、家の中の米やみそがどんどんへっていくのです。そこで男は、町へ出かけるといってこっそり家の天井裏にかくれ、ようすをうかがうことにしました。そんなこととは知らない女は、大釜でごはんを炊きはじめました。炊きあがると、にぎりめしをたくさん作り、大なべではみそしるを作りだしました。

(あんなにたくさん、にぎりめしやみそしるを作ってどうするんだろう)と思っていると、女は、長い髪を真ん中からほどいて分けると、何と頭のてっぺんから大きな口があいたのです。男がびっくりしていると、女はにやりと笑いながら、頭の口の中へ、にぎりめしをつぎつぎにほうりこみました。こんどは、大きなひしゃくでみそしるをすくうと、みそしるを頭の口へ流しこんだのです。(やや、あいつは化けものだ!)

男は、そっと天井裏からおりると、はだしのまま友だちのところへ逃げていきました。「だからいわないこっちゃない。でも、今日は知らないふりをして帰れ。正体が知れたことがわかれば何がおこるかわからない」「必ず助けにきておくれ」と、男はこわごわ家に帰りました。

家に帰ると、女は頭が痛いと寝ています。「そりゃいかん。薬でも飲んでみるか」「いいえ、薬は大きらいです」「それじゃ、まじない師にきてもらおう」と、男は友だちを呼んできました。まじない師に変装した友だちは「頭が痛いのは、にぎりめしと、みそしるの食いすぎだ」といいました。すると、女はぱっと飛び起きると「見たな!」と叫ぶや、みるみる目がつりあがり、口は耳まで裂け、いきなり友だちの頭をガリガリかじりはじめたのです。

「キャー、人食い鬼だーっ!」悲鳴をあげながら男は、山へ向かってどんどん走りました。鬼は、すぐに男を追いかけます。男は必死で逃げました。捕まりそうになったとき、頭の上の木の枝にひょいと飛びつきました。うまいぐあいに、鬼は気がつかずに走って行きます。ところが、男が木から下りると、鬼がもどってきました。あわてて男は、しょうぶのたくさん生えている草むらにかくれると、鬼は歯をむき出してとびかかってきました。そのときです。「ワァーっ」と鬼は、目をおさえてひっくりかえりました。しょうぶの葉の先で、両目を刺してしまったのです。目をつぶされた鬼は、うなり声をあげながら、あばれまわっています。

そのすきに、男は逃げて逃げて、命だけは助かりました。

こんな話から、しょうぶが男の子にとって縁起の良い植物とされて、家の軒下につるしたり、枕の下に置いて寝たり、端午の節句にしょうぶ湯に入るようになったそうです。