たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 43]

むかし、お母さんと二人でくらしているハンスという少年がいました。お母さんに頼まれて、納屋から小麦粉を持って階段をおりてくると、ピューッと北風が吹いてきて、粉を吹きとばしてしまいました。しかたなく、ハンスはもう一度納屋へもどって粉を持ってきましたが、階段のところへくると、またもや北風が粉を吹きとばしました。腹を立てたハンスは、「粉を返せ!」と叫びながら、北風を追いかけました。でも、追っても追っても北風は逃げていって、なかなかつかまりません。ようやく、雪の野原に氷の家が建っていて、北風の家のようです。

「おーい、北風さーん、中にいる?」 とハンスが叫ぶと、北風が顔を出しました。「坊やか、何か用かい?」 「おじさん、ぼくの粉をさらっていったでしょ。だから、ぼく、粉を返してもらおうと思って、追いかけてきたんだ。だって、ぼくたちは貧乏で、おじさんに粉をさらわれたら、飢え死にするほかないもん」 「わしは、お前の粉なんか取りはしないよ。でも、よくもこんな遠くへきたもんだな。よし、お前たちがそんなに困っているのなら、特別のテーブルかけをあげよう。『テーブルかけ、おいしいごちそうを出してくれ』 っていうと、その通りになるんだ」

不思議なテーブルかけをもらったハンスは、北風にお礼をいうと、家へ帰りはじめました。途中で夜になったため、ハンスは宿屋に泊まって、さっそく試してみました。「テーブルかけ、おいしいごちそうを出してくれ」 といったとたん、おいしそうなごちそうがテーブルの上に並びました。ドアのすき間からのぞいていた宿屋の主人は、ごちそうを見ると、テーブルかけがほしくてたまらなくなりました。そこで、夜中にハンスの部屋に忍びこむと、テーブルかけを、ただのテーブルかけとすりかえてしまいました。

家に帰ったハンスは、お母さんにごちそうを出してあげようとしましたが、パンの1枚も出てきません。ハンスはもう一度北風のところへ走りました。「北風さん、テーブルかけは返すから、粉を返してよ」 「弱ったな、それじゃ、このヒツジをあげよう。『ヒツジ、ヒツジ、お金を出しておくれ』 っていうと、金貨を出すんだ。帰り道、ハンスはやはりこの前の宿屋に泊まって、試してみました。するとヒツジは、ほしいだけ金貨を吐き出します。ドアのすきまから見ていた宿屋の主人は、また夜中に忍びこんで、ただのヒツジと取りかえてしまいました。

ハンスはお母さんに金貨を出してあげようとしましたが、また何も出てきません。そこで、もう一度北風のところへ出かけました。「弱ったな。わしにはもう、あそこにある古いステッキしか、お前にやるものはない。『ステッキ、ステッキ、悪いやつをぶちのめせ!』 というと 『ステッキ、もうおやめ!』 というまで、たたき続けるんだ」

その夜も、ハンスはあの宿屋に泊まりました。つえをしっかり抱いてベッドに入ると、いびきをかいて眠ったふりをしました。このステッキも魔法のステッキと思った宿屋の主人は、またすりかえようとしました。そのとき、ハンスは叫びました。『ステッキ、ステッキ、悪いやつをぶちのめせ!』 といったからたまりません。ステッキは主人に飛びかかって、ビシビシたたきはじめました。主人は悲鳴をあげながら 「お願いです。どうかステッキを止めてください。テーブルかけも、ヒツジもお返しします」

『ステッキ、もうおやめ!』 とハンスはいうと、宿屋の主人からテーブルかけを受けとり、ヒツジをひっぱりながら家に帰りました。こうしてハンスは、北風からもらった不思議なテーブルかけと、ヒツジのおかげで、お母さんと幸せに暮らしたということです。