たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 38]

むかし、ごんべぇさんという、貧乏ではありますが、正直でよく働く若者がいました。ある晩のこと、見たこともない美しい娘が、ごんべぇさんの家にやってきて 「道に迷ってしまいました。どうか、一晩とめてもらえないでしょうか」 というのです。

心の優しいごんべぇさんは、「どうぞ、どうぞ」 と気持ちよく家の中へ入れてあげました。見ればみるほど美しい娘です。ごんべぇさんは (こんなきれいな人を嫁さんにできたらなぁ) と、うっとりながめていると、娘は 「あなたは、とっても親切な人です。どうか、私をあなたのお嫁にしてくれないでしょうか」 というではありませんか。ごんべぇさんは飛び上がって喜びました。お嫁さんは、美しいだけでなく、気立てがよい上、働き者でした。

ところがごんべぇさんは、朝から晩まで奥さんの顔ばかり見ていて、仕事をさっぱりしなくなってしまいました。畑に出かけても、お嫁さんのことが気になって、すぐに帰ってきてしまいます。そこでお嫁さんは、絵かきのところへ行って、自分の姿を絵に描いてもらいました。そして、「お前さん、この絵姿を畑に持っていって、これを私だと思って仕事をしてください」 といいました。

ごんべぇさんは 「なんてきれいな絵姿だ。これなら我慢ができそうだ」 と、毎日奥さんの絵姿を持って、畑にでかけました。そして、畑のそばの木に絵姿を立てかけて、仕事の合間に、何度も何度も絵姿を見にもどっては、仕事にはげみました。

ところが、ある日のことです。強風にあおられて、あっという間に絵姿は空へ舞い上がってしまいました。ごんべぇさんは鍬をほうりだして、絵姿を追いかけましたが、凧のように空高く上がっていって、どこかに消えてしまったのです。

空を飛んでいった絵姿は、殿様の屋敷の庭に落ちました。ちょうど、庭を散歩していた殿様は、この絵姿を見ると、うなってしまいました。「何という美人だ。わしの奥方にしたいものだ」 と、家来を呼びつけ、絵姿の女をさがすように命じました。

家来たちは、あちこちをさがしまわって、ごんべぇさんの家にやってきました。「この絵姿は、お前の女房だそうだが、殿様のいいつけで、屋敷へ連れて行く」 と、ごんべぇさんが泣いて頼んでも聞き入れてくれません。奥さんは 「お前さん、年の暮れになったら、殿様のお屋敷へ門松を売りにきておくれ」 とごんべぇさんにいいのこして、家来に連れられていってしまいました。

ごんべぇさんは、仕事も手につかず、泣きながら毎日をくらしていました。やがて、年の暮れがきました。ごんべぇさんは気をとりなおして、奥さんにいわれたとおり、門松をかついで、殿様の屋敷へでむきました。「門松はいらんかなぁ」 と屋敷の前で大声をあげたのです。

この声を聞くと、殿様の屋敷につれてこられてから一度も笑ったことのなかった奥方が、にっこり笑いました。殿様はこれを見ると、(そんなに、門松売りがおもしろいなら、わしが門松売りになって、もっと笑わせたいな) と、ごんべぇさんを屋敷に入れ、自分の着ているものと、とりかえさせました。それから門松をかついで 「えーい、門松はいらんかなぁ」 といいながら、屋敷の中を歩きまわりました。

奥方は大喜びです。調子にのった殿様は、門松をかついだまま屋敷の外へ出ていきました。そのとたん、奥方は家来に命じて屋敷の門をしっかり閉じさせました。しばらくして、殿様が 「おーい、わしじゃ、門を開けろ!」 といいました。でも、門は閉まったままです。あわてた殿様が門を何度もたたいても、きたないかっこうの門松売りなど、誰も相手にしません。それどころか、殿様は門番にたたかれ、追い払われてしまいました。

こうして、ごんべぇさんが殿様になり、奥方といつまでもしあわせにくらしたということです。