たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 8]

むかし、ある村に、水車小屋をひとつ持っている正直な男がいました。
ある日のこと、リンゴがひとつ川上から流れてきました。おいしそうなりンゴです。男は思わず、ひと口かじりました。
でも、男はハッとしました。「このリンゴは、ひとさまのものだ」 ということに、気がついたからです。
男は「リンゴの持主におわびをしよう」と、水車小屋をしめて、旅にでました。そして、川上を歩いていくと、3日目に、1本のリンゴの木を見つけました。赤い実は、男がかじったものと同じです。男は胸をなでおろして、リンゴの持主に 「おわびに、私がもっているどんなものでも、さしあげます」 と、頭をさげました。
ところが、主人は 「いやいや、ぜったいにゆるさない」 と言いました。主人は、こんなことでおわびにきた男を、きっとバカだと思ったのでしょう。すると男は、「では、ゆるしていただけるまで、あなたの召使いになって働きます」 と言いました。

よく朝のこと。りんごの主人の家の軒下に、昨日の男がいます。
「おいおい、いったい、いつまでいるつもりだ」
「お許しをいただかなければ、死ぬまででも……」
これを聞いた主人は、こんどは、考えこんでいました。
そして、しばらくすると、男を見つめながら言いました。
「わたしには、むすめが1人いる。でも、そのむすめには、目も耳もない。手もない。足もない。だから、1歩も歩くことさえできないのだ。もし、おまえが、こんなむすめを嫁にしてくれるのだったら、リンゴを食べたことを許そう」 すると男は、「はい、ありがとうございます。おゆるしいただけるのでしたら、喜んで……」 と、きっぱり答えたではありませんか。
主人は、さっそく、男を家へ招きいれると、お祝いの準備をすませ、男を、奥のへやに通して、戸をぴったりとしめました。

男は、おそるおそる顔をあげました。すると、部屋のすみに、まちがいなく一人のむすめがいます。でも、手も足もないむすめどころか、とてもきれいな娘なのです。おどろいた男は、あわてて主人をよびました。
「あなたは、まちがえています。目は見えず、耳は聞こえず、手も足もないとおっしゃったのに、この方は、これまで、わたしが出会ったこともないような、すばらしいむすめさんではありませんか」
でも主人は、ほほ笑みながら言いました。
「どんなすがたをしていても、もう、むすめは、あなたのものですよ。むすめも、きっと、よろこんでくれると思います」 男は、もういちど驚きました。こんどはうれしい驚きです。そして、主人に、よろこんでむすめを嫁にすることを約束しました。
やがて主人は男に言いました。「わたしは、はじめは、あなたをバカだと思っていました。ところが、あなたの話を聞いているうちに、あなたほど正直で心の美しい人はいないことがわかりました。だから、むすめを、さしあげることにしたのです。どうぞ、むすめを幸せにしてあげてください」