読書したり、本を読んでもらったりすると、どのようなことが展開するのかを少し掘り下げて考えてみましょう。読んだり聞いたりしたその言葉から、人は独自のイメージを創りあげます。さまざまな体験をもとにしたイメージです。幼児はその体験が少ないので、さし絵が必要になります。絵本の1シーンを見せ、次のシーンを思い浮かべることを容易にするためです。そのうち文字や言葉だけで、自由に想像することができるようになるわけですが、これはくりかえしの訓練をしないとむずかしい作業です。子どもの成長にあわせ、あきさせない工夫をしながら、段階的にすすめていく工夫をしてみてください。

何をいおうとテレビは、イメージをそのまま見せてしまいますから、このイメージ力が育ちません。私は、子どもにテレビを見せるなというつもりはありません。テレビ文化のおかげで、どんなに子どもの世界は豊かになったか、はかりしれないものがあるからです。しかし、テレビの世界とは別に、本の世界という、まことに奥深い、面白い世界があることを幼児期に是非体験させて欲しいのです。相手を思いやれるやさしさ、やつけられた気持ちをイメージできる子が増えれば、陰湿ないじめは今よりずっと少なくなるにちがいありません。

ラジオを聞くことも、読書と似た体験をすることになりました。まだ私が小学生のころ、NHKラジオで夕方放送していた「白鳥の騎士」「笛吹童子」「紅孔雀」といった15分ほどの放送劇に夢中になっていたことがありました。音が時折消えかかる受信機のスピーカーにかじりつくように、ひとつの言葉も聞き漏らすまいと集中していました。ひとつの話は1年間続いていたはずですから、丸3年間は欠かさずに聞いたはずです。ある時、近くの映画館で「笛吹童子」が上映されることになりました。親にねだって、見に行かせてもらいました。感想は、何とおそまつな映画なのだろうと、がっかりした気持ちをいまだに覚えています。1年間積み重ねてきた私のイメージに、映画はとてもかなわなかったのです。(以下次回)