10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第63回目。

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● 心にしみじみ何かが伝わる作品

「あなたが、これまでに自分で読んだり、だれかに読み聞かせてもらった本のなかでいちばん心に残っているのは、何という本ですか。本の題名と心に残っていることを書いてください」
──東京のある子ども文庫に集まってくる小学生53人を対象に、こんな調査をしました。その結果、「かわいそうなぞう」 「ごんぎつね」 などは、5人以上の子どもがあげ、結局53人の子どもが1冊ずつあげた本は全部で33冊になりました。その33冊のうち、小学校2年生以下の子どもがあげた本を紹介してみましょう。「心に残ったこと」 に耳を傾けると、子ビもにとっての読書のすばらしさがよくわかります。

★ 「かわいそうなぞう」──食べものがほしくて、ぞうがげいとうをしたとき、なみだがでてとまりませんでした。このときほど、せんそうがにくいと思ったことはありません。

★ 「ごんぎつね」 ──ひとりぼっちでしんでいったごんのことを思うと、いまでもなみだがでてきます。

★ 「かたあしだちょうのエルフ」──もりのみんなのためにしんだエルフの強さとやさしさが、いつまでもわすれられません。

★ 「花さき山」──だれかがやさしいことをしたら、ひとつさく花。わたしも花をさかせようと思いました。

★ 「ひさの星」──小さな子どもをたすけて、じぶんはしんでいったひさ。今も星を見ると、ひさのことが心にうかんできます。

★ 「ないた赤おに」──赤おにはむらの人となかよしになってよかったけど、青おにのことがかわいそうでしかたがありませんでした。

★ 「てぶくろをかいに」──子ぎつねのやさしいおかあさんのことが、いまもこころにのこっています。

★ 「おしゃべりなたまごやき」 ──いたずらずきだけど、あんなに心のやさしい王さまが、せかいのどこかにいたらいいなあと思います。いまでもたまごを見ると、王さまのことを思いだして、わらってしまいます。

★ 「チロンヌップのきつね」──おとうさんに読んでもらったとき、妹といっしょにボロボロなみだがでてきて、「にんげんってかってなことをするんだなあ。ぼくは、このへいたいのようになりたくない」 と思ったのをおぼえています。

★ 「たぬき学校」──おとしあなを作ってポン先生がおちたり、たぬきのいたずらがとてもおもしろかった。こんな学校があったらいいなあと思いました。

★ 「マッチ売りの少女」──少女がおばあさんといっしょに天にのぼっていったところはよかったけれど、さいごに雪の中でしんでいるところは、なみだがでて、とまりませんでした。

★ 「みにくいあひるの子」──小さいとき、お母さんによんでもらって、あひるの子が白鳥になるところにくると、いつも 「みにくいあひるの子の白鳥さん、よかったね、おやすみなさい」 といってねました。

★ 「ヘレンケラー」── 2回よみました。どんな人でも努力すれば、どんなことでもできるのだということがわかりました。たいせつなのは心だということが、わかったような気がします。このあと、すぐ 「ナイチンゲール」 のでんきをよんで、やっぱりたいせつなのは心だと思いました。

以上、自分が読んだ本の1冊、読み聞かせてもらった本の1冊が、どれほど深く心に残っているかがわかります。ほかにもいろいろな本を読んだり、読み聞かせてもらったりしたはずです。でも、子どもたちには、ただおもしろかった本よりも、やはり、心にしみじみと何かが伝わった本が、いつまでも心に残っているようです。
すぐれた作品の世界にすっぽり入り込んで“生きる”──このことが、子どもの心に大切な何かを残していくのではないでしょうか。

なお、次回からは、世界の偉人・日本の偉人といわれる人たちの、子ども時代の紹介をします。必ずしも、子どもの頃から立派な人物ではない人も多く、とても興味深いものがあります。