10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第47回目。

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● 自力で育む、他人を思いやるやさしさ

この絵本「きいろいばけつ」(もりやま みやこ作・つちだ よしはる絵 あかね書房刊) のあらすじは、つぎの通りです。

きつねが森の中で黄色いばけつを見つけました。とっても欲しかったばけつです。でも、持ち主が探しにくるかもしれないと思い、すぐに自分のものにしないで、1週間だけ待つことにしました。
きつねは、やがてそれが自分の物になると思うとうれしくてたまりません。毎日毎日、ばけつの所へ行っては、ばけつに赤いりんごをいっぱい入れてみんなに分けてあげることを想像したり、ばけつに水をくんで近くの木にかけたりして遊びます。
ところが、あしたが1週間目という日の夜、ばけつが風に飛ばされてお月さまのところへ行ってしまう夢を見ました。すると、次の日、ほんとうにばけつがなくなっていたのです。
ばけつはきつねの物にはなりませんでした。でも、きつねは悲しい顔もせず、にっこり笑って言いました。
「いいんだよ、もう」 「いいんだよ、ほんとに」……。

幼児への読み聞かせにも適している心やさしい絵本です。
この本を読んだ子どもたち(小学1年生)は、きつねの気持ちをいっしょうけんめいに思いやっています。
「きつねくん、きいろいばけつがほしくてしかたがないのに、1しゅうかんも、よくがまんしたね。もちぬしのことをかんがえるなんて、とってもしょうじきなんだね」
「1しゅうかん、ばけつのことばかりしんぱいだったんだね。きんようびに、どしゃぶりのあめがふって、ぬれたばけつをみていたら、きつねくん、なきたくなったのは、どうしてかな。あめにぬれてかわいそうだとおもったんだね」

また、きつねの正直さ、やさしさから、次のようなことも考えています。
「きいろいばけつは、おつきさまがばけつをもっていない、しょうじきなきつねさんに、1しゅうかんだけかしてくれたんだよ」
「きつねくんは、やさしいこころをもっていたから、きっと、ばけつさんと、おはなしができたんだよ。──ばけつさん、ひとりぼっちで、さみしいでしょう。いいえ、きつねさんがきてくれるから、さみしくないわ──って」
子どもたちは、きつねがばけつと遊んだり、ばけつのことを心配したりする姿のほほえましさに、「きつねくん、1しゅうかんは、あと3日だよ。がんばってね」 などと、心のなかで声援をおくっているのです。

子どもたちが、いちばん心を寄せているのは、きつねが、ばけつは自分の物にはならなかったのに 「いいんだよ、もう」 と言ったところです。
子どもたちは、ぼくならくやしいのに、きつねは、どうして 「いいんだよ、もう」 と言えたんだろうと考えています。そして、多くの子どもが 「きつねは、やさしいこころだけではなく、つよいこころももっていたんだ」 と自分で答えをだしています。
「きつねくんは、ばけつくんが、ほんとうは、お月さまのところへはやくかえりたかったのに、がまんして、ぼくとあそんでくれたんだと、おもったのではないでしょうか。だから、ばけつがなくなったとき、ばけつさん、ありがとうと、こころのなかで、いったんだとおもいます」 と語っている子どももいます。
また、きつねは心の中にばけつとの楽しい想い出をたくさんもてたから、それを心の宝にして 「いいんだよ、もう」 と言えたんだと思うとも語っています。

この本を読んで、ほとんどの子どもが、自分がきつねになったつもりで、きつねの心をなんどもなんども考えています。
こんな本をいくつか読んでいくうちには、ごく自然に、他人を思うやさしさを、自分の力で育てていってくれます。「いいんだよ、もう」 と言えたのは 「どうしてだろう」、ばけつがなくなったのは 「どうしてだろう」 などと“考える力” をも育んでいきます。

なおこの絵本は、「えほんナビ」のホームページでも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=1278