10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第46回目。

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● 冒険ものがたりを楽しみながら「科学する心」を芽ばえさせる

子どもに絵本を求める、読んで聞かせるというとき、一般的には、文学の分野に属するお話の絵本を考えます。
しかし、絵本は、大きくはお話の絵本 (民話を含む) と知識の絵本に分けられ、知識の絵本のなかには、科学絵本、動物絵本、乗物絵本、社会の絵本、数の絵本、ことばの絵本、図工の絵本など多様なものがあります。子どもの情緒を深め、想像力、思考力、観察力をのばし、総合的に創造性に高めていくには、それほどに多様なものが必要なのです。
したがって、絵本を求めるときも読み聞かせるときも、このことを頭に入れておくことがたいせつです。

ここに 「しずくのぼうけん」(福音館書店刊)という絵本があります。バケツからとびだした 「しずく」 が、きれいになろうと洗たく屋や病院をまわったすえに、水たまりに落ちてしまいます。そして、目には見えないしずくになって雲のところへのぼり、雨になってもういちど地面へ。岩のわれめにしみこんで氷となって岩を割り、やがてとけて小川から広い川へ、そして水道のとり入れ口に吸い込まれ、水道の蛇口から洗たく機の中へ。洗たく物がストーブのそばに干されると水蒸気になって外へ出て、今度は、つららに……。このように、しずくが冒険旅行にでるという形にしたてた、ポーランドの絵本です。

この絵本を読んだ1年生の子どもたちは、10人が10人、「しずくさん、とってもたいへんなんだね」 「しずくさん、ありがとう」 などと、しずくに語りかけながら、はじめて水についていろいろなことを知ったこと、考えたことを告白しています。
「水は、空とじめんのあいだを行ったりきたりしながら、にんげんにやくだつしごとを、たくさんしているんだ」 「ねつがでたとき、お母さんがこおりをいれたタオルをあたまにのせてくれたけど、しずくさんは、わたしのびょうきもなおしてくれたんだ」
「アイススケートじょうは、しずくさんたちがあつまって、あそびばをつくってくれているんだね」
「うつくしいはなをみたり、おいしいくだものをたべたりできるのも、しずくさんが、そだててくれたからだね」
子どもたちは、こんなことを言いながら、しずくに感謝しています。ふだんはなにも感じていなかったことを改めて見つめなおして、はじめて水のありがたさに気がついたのです。

それだけではありません。このわずか24ページの1冊の絵本が、もう一つのすばらしいことを子どもたちに気づかせています。
それは 「まわりのことをよくみたら、きっと、どんなことでも、ふしぎなことがいっぱいあるんだ」 「つちや木やくさや、こんちゅうのことだって、きっと、おもしろいことがたくさんあるんだ」 などの言葉に表れていること、つまり、ものごとに興味をもつことのたいせつさを気づかせたことです。
「科学する心」 にめざめさせたと言ってもよいのかもしれません。
「しずくのほうけん」 を読んで、水のことについて知ったことはたしかに一つの収穫です。しかし、この1冊の絵本をとおして 「科学する心」 の芽をださせたとしたら、それこそ大収穫です。
知識の絵本──それは、子どもに早く知識を与えるために、物知りにすることだけにあるのではありません。知るという楽しみをとおして、子どもの創造性を育てるところにこそ、大きな役割があるのです。
科学する心や創造性を、親が口先だけで子どもに伝えようとしても、むずかしいこと。それを絵本はたった1冊でなんなく果たしてくれます。

なお、この絵本は、「絵本ナビ」のホームページでも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=267