10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第24回目。

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今回紹介するのは「しょうぼうじどうしゃ じぷた」(渡辺茂男作・山本忠敬絵 福音館書店刊) です。

● ちびっこを笑ってはいけない
ある町の消防署。高いビルが火事のきは、ぐんぐんはしごをのばして指揮する、はしご車の、のっぽくん。どんな大火事でも、すごい圧力で水をふきかけて火を消してしまう、高圧車の、ぱんぷくん。けが人がでると、矢のような早さで病院へはこぶ、救急車の、いちもくさん。そして、はたらきものだが、ちびっこの、じぷた。でも、じぷたには、なかなか出番がありません。
いつも、のっぽくん、ぱんぷくん、いちもくさんの自慢を聞きながら、出番を待っています。なにもしないから、町の子どもたちも、見向きもしてくれません。ところがある日、山火事がおこり、大きな車は通れず、じぷたの出番。じぷたは必死の活躍で、みごとに火を消しとめ、つぎの日、その活躍ぶりが新聞に……。この物語を読んだ子どもたちが、いちように声をあげているのは 「がんばれ、じぷた」 「よくやったね、ちびっこじぷた」 という言葉です。1年生になったばかりの1人の男の子は 「ぼくは、むちゅうになって、じぷたを、おうえんした。じぷたは、いままで、みんなからばかにされていたこともわすれて、いきのつづくかぎり、がんばった。ぼくは、はらはらしたが、ひとりで火をけしてしまったとき、おもわず、やったあ、とさけんだ」 と、語っています。読んでいくうちに、じぷたと自分がひとつになってしまうのです。

● ちびっこだって負けやしない
でも、子どもたちは、ただ 「じぷたがんばれ」 「じぷたよかったね」 で終わっているのではありません。じぷたから、すばらしいことを、くみとっています。
それは、ちびっこだって、いっしょうけんめいにやれば、だれにも負けはしないんだ、ということです。また、みんなに笑われたくらいで、めそめそすることなんかないんだ、ということです。「ぼくは、クラスのなかでも、いちばんのちびっこだ」 という男の子が、この物語を読んだあと、胸をはって言っています。
「ぼくは、みんなから、ちびっこちびっことばかにされ、いつも、大きくなりたい、大きくなりたいと、おもってきた。かみさまにも、いつも、大きくしてくださいと、おいのりしてきた。でも、この本をよんで、そんな、おいのりなんか、することないってことが、はっきりわかった。ちびっこだっていい。じぷたみたいに、がんばればいいんだ。じぶんで、ちびっこちびっこと、おもって、ちいさくなっているから、みんなに、ばかにされるんだ。もう、これからは、まけない。ちびっこといわれても、へいきだねえ、じぷたくん。そうだよね。じぷたくん、すばらしいことおしえてくれて、ありがとう」
また、ちびっこ、ちびっこと、からかわれて、いつも悲しかったという女の子は、つぎのように語っています。
「この本を読んだあと、どこからか、ちびっこでも、つよくならなければいけないんだよ、というこえが、聞こえてきました。きっと、じぷたのこえです。じぷたは、わたしを、はげましてくれたんです。じぷたさん、ありがとう。じぷたさん、いつまでも、わたしと、なかよしでいてね」
この物語のなかに、ちびっこでも強くならなければ、というような教訓的な言葉は、でてきません。でも、子どもたちは、じぷたとひとつになることで、それを学びとっているのです。
「ちびっこだからといって、けっしてばかにしてはいけないんだ」 「じぶんだけが、
いいことができたからといって、じまんしては、いけないんだ。人が、さみしそうにしているときは、その人のきもちを、かんがえてあげないといけないんだ」 と、のっぽくん、ぱんぷくん、いちもくさんの立場から、他人への思いやりを考えている子どももいます。
わずか28ページの1冊の絵本が、この本を読んだすべての子どもたちへ、すばらしい心の贈りものをしているのです。この本が出版されたのは昭和38年。それからもう40年以上も読みつがれています。

なお、この本は、「えほんナビ」でも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=220