昨日に続き、「子どもワールド図書館」の刊行意図(1980年当時)2回目を採録してみよう。

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私どもが編集面で心がけてきたもうひとつのポイントは、片寄りのない記述、そこに住む人たちの側に立った記述ということでした。

通信や交通手段等の発展によって、たしかに地球は狭くなっています。しかし、情報面での片寄りには大きな問題があります。それは、世界のニュースの大部分がロンドン、パリ、ニューヨークを通じて行なわれているからで、AP、UP、ロイター、AFPといった大通信社が情報の80%近くを独占しているといわれています。したがって、米英仏等の欧米先進国に都合の良いニュースが流れ、私たちの考え方そのものも、その情報によって歪められているかもしれません。従来あまり重要視されなかった国々にもできるだけ焦点を当てようとしたのは、そんな理由からでした。

中国、朝鮮、東南アジア、西アジアなどのアジア諸国、アフリカ、ラテンアメリカ諸国にも多くのスペースをさいたのをはじめ、私たち資本主義国とはなじみのうすいソビエト、東ヨーロッパ諸国などの社会主義諸国のくらしぶりについても、出来るだけ詳しく紹介するように努めました。

「西アジア」 も力を入れた巻のひとつです。それは、この地方が、私たちにはなじみのうすいイスラム諸国とユダヤ教の国イスラエルがあり、キリスト教信者も多い複雑な地域である上、オイルショックの引き金ともなったところだけに、慎重にしかも問題点がどこにあるのかを明確にとりあげなくてはならないと考えたからです。じっさい私たちは、石油危機のおかげで、中東諸国の存在に気づいたといってもよいでしょう。

地球上には8億人ものイスラム教徒がいて、1日に5回聖地メッカにむかって拝み、禁酒や断食によって心身の節制を守っていると聞いても、そんな国があるのだなどと思うくらいのものでした。しかしその行ないも、苛酷な大自然の中から逃れられない人々の生への願望であり、超大な大自然への畏敬の念でもあったに違いありません。

私たち日本人の多くの人たちの世界地図には、アメリカや西ヨーロッパなどの近代的な大国しか描けず、これらの国々と肩を並べることばかり考えていたといってはいいすぎでしょうか。たしかに戦後の世界は、北半球にある先進諸国と呼ばれる国ぐにによって、軍事的にも政治的にも経済的にも支配されてきました。しかし、こうした世界の構造を根本的にくつがえそうとしたのが中東の石油でした。1970年代の主役は核兵器から石油にとって変わり、80年代の世界はこの石油によってつくり変えられようとしています。

イラン革命で突如あらわれたホメイニ師を、中世からあらわれたドンキホーテとこきおろす人が多いようですが、やり方はかなり荒っぽいけれど、耳を傾けるべき発言に注目する必要があります。たとえば、北側諸国の繁栄は南の資源の略奪によって生れたとか、南側の国々が発展する道は北側の先進国が歩んだ道をたどることではなく、固有のイスラム文明による独自の発展をめざせと説いて、多くの国民の支持を得ているという事実です。

私たちは毎日、新聞の紙面からあるいはテレビの画面などを通じて、国際情報を北側の眼でみているはずです。しかし、この情報がそこで生活する人々にとってどういう意味なのかという視点、これまでの見方プラスもう一枚の世界地図を描かなくてはならないのではないでしょうか。それは、国際理解の本質が、そこに住む人たちを思いやる精神にあると思うからです。