世界中の子どもや親たちに大人気の「セサミストリート」は、1969年、アメリカで誕生した教育番組である。アメリカの1960年代というのは、政治的にも経済的、文化的にも充実した時代で、世界の超大国として自信と活気に満ちあふれていた。しかし、一方では、黒人やヒスパニッシュらに対する人種差別や貧困があり、しいたげられた人々による犯罪が多発し、大きな社会問題になっていた。そんな犯罪者たちの子どもの多くは学校に通っておらず、そのため文字は読めず、数もかぞえられない、物事の善悪や社会的なルールも教えられていない、という現実があった。当時、そんな子どもたちの最大の楽しみは、テレビを見ることだった。

「テレビを通して、学校へ通わない子どもたちを教育しよう。子どもたちをテレビにくぎづけにしてしまうほど、楽しい教育番組をこしらえて…」。こうして、フォードやカーネギーといった大企業が資金を出し合って財団を作り、「テレビによる子どもの学校」をめざして制作されたのが「セサミストリート」である。アメリカを代表する教育心理学者や言語学者たちが集まり、討論に討論を重ねて練り上げたカリキュラムを基本にしている。セサミストリートに登場するマペットたちは、肌の色もさまざま、容姿や大小も千差万別である。怖いものの代表でもあるドラキュラ伯を模した数を教えるカウント伯、ごみ箱に住むあまのじゃくのオスカーなど、肌の色の違いや、障害、容姿やものの考え方の違いを越え、あらゆる人々が安心して快適に生活できる「バリアフリー」の精神を、子どもたちにごく自然な形で教えていきたいという意図があるからなのだろう。

ちなみに「セサミ=sesame」とは、胡麻(ごま)のことである。アラビアンナイトの話に出てくる「アリババと40人の盗賊」の「ひらけ! ごま(Open, sesame!)」から名づけられた。この呪文で宝物が隠してある洞窟の扉が開かれるように、セサミストリートを通じて、子どもたちが[新しい世界や知識の扉を開いて欲しい]、そして[平和で豊かな社会を愛する心を育んでほしい]という願いがこめられているのだという。
1970年にはじまったフジテレビの人気教育番組「ひらけ! ポンキッキ」も、この「セサミストリート」をお手本に制作したと、プロデューサーの一人は語っている。