児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ

30歳で独立、31歳で出版社(いずみ書房)を創業。 取次店⇒書店という既成の流通に頼ることなく独自の販売手法を確立。 ユニークな編集ノウハウと教育理念を、そして今を綴る。

今週も、印象に残った事がらをつづってみます。

●「野ばら」は何百曲もある?

歌曲の「野ばら」と聞いてすぐ口に出るのは、ゆったりとしたメロディのなかに憂いをおびた3拍子のウェルナーの曲と、テンポの速いリズミカルなシューベルトの曲です。
「童は見たり/野中のばら/清らに咲ける/その色愛でつ/あかず眺むる/紅におう/野中のばら」
そして以下のように続きます。赤いばらは少年に「折ったらトゲで刺しますよ。お願いだから折らないで」と頼みますが、ばらの願いはとどかず折られてしまいます。野ばらは悲しくてしかたがありません。でも野ばらは、折られても、いつまでも気高く香りつづけようとします。
この歌曲は、ドイツの大詩人ゲーテ22歳の時の詩に、曲をつけたものです。ヨーロッパでは、バラが愛の象徴で、少年がトゲのあるバラを折るというゲーテの詩は、自らの体験から書かれたそうで、「青春の真っただなかにいる男女の世界」を暗示していることもあって、多くの作曲家の創作意欲をそそるせいでしょう。ブラームスやシューマンの作品もあり、ベートーベンも挑戦しています。ある日本人が、ドイツやオーストリアの研究者に協力を求めて楽譜をとりよせたところ88曲が見つかり、1987年に出版されたそうです。日本語訳も1907年に近藤朔風によって発表されたのを皮切りに森鴎外、手塚富雄ら20人以上の訳詞が知られています。さらに、長野県の松本市では1995年から毎年「野ばら」の詩に曲をつけるコンクールを催しているそうで、すでに何百曲もできているといいますから、その人気は今も続いているのでしょう。

● 「さくら」の歌詞

もうひとつ歌の話、日本の古謡「さくら」の歌詞のこと。あなたは次のどちらの歌詞で歌いますか?
○ さくら/さくら/野山も里も/見わたす限り/かすみか雲か/朝日ににおう/さくら/さくら/花ざかり
◎ さくら/さくら/弥生の空は/見わたす限り/かすみか雲か/においぞ出ずる/いざやいざや/見にゆかん
日本人の大好きな桜、そして誰もが知っている「さくら」の歌なのに、歌詞がどうも一致しません。ちょっと調べてみましたら、1888年に文部省唱歌として登場したのが後者◎の詞で、1941年太平洋戦争のために小学校が国民学校となった際、「うたのほん」に登場したのが前者○の詞のようです。現在の小学校の音楽の教科書でも前者の詞で登場します。ところが、一部の中学校の教科書には後者◎の詞になっているようで、もうどうでもよいのかもしれません。ちなみに、手元にある「日本の歌」(のばら社刊)では、1番の詞が前者○、2番の詞が後者◎となっています。

前回(3/15号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第5巻「イギリス」の巻末解説と、その後の変化を記した補足事項を記します。

「イギリス」 について

ヨーロッパの西北部、大西洋に浮かぶ小さな島国イギリスの正式国名は、グレートブリテンおよびアイルランド連合王国といいます。面積は24.5万平方kmですから日本の方が1.5倍ほど広いことになります。そこに*[約5600万人]の人がくらしています。
*[2005年現在5970万人]
イギリスは、すでに13世紀に世界の君主政治の手本となっている議会政治の基礎をつくりました。専政君主制をやめて、国民の代表が話しあいによって政治をおこない、その代表は一定の期間ごとに選挙によってえらばれるという政治です。こうした進歩性が産業の発展にもあらわれ、長い間、世界の国々の先頭に立ってきました。
18世紀の後半、イギリスに産業革命がおこりました。これまでの手工業に、新しく発明された機械がとってかわったのです。イギリスはすでに、スペインやオランダとの争いに勝ち、植民地をたくさんもっていたため、機械技術のすばらしい発展と共に、みるみるうちに領土を広げ、世界中の陸地の1/4を支配するまでになりました。「イギリスに太陽は沈まない」といわれたのはこの頃のことです。
ところが20世紀になると、ドイツ、フランス、アメリカや日本が力をつけはじめ、世界の富をひとり占めにするわけにはいかなくなりました。第1次世界大戦はいわば、イギリスやフランスの古い資本主義と、ドイツなどの新しくおこした資本主義との争いともいえるものでした。イギリスは連合国の中心となってドイツをやぶりましたが、戦後にはげしい恐慌におそわれました。さらに、植民地だったカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどが次々に独立し、アメリカや日本などと対抗するのにやっとという状態になってしまったのです。
第 2次世界大戦もまた、イギリスの人びとに苦しみを与え、戦争は勝利におわったものの、復興に手間どりました。おまけに、アジアやアフリカの植民地の人びとがもうこれ以上イギリスの支配にがまんできないと立ちあがり、インド、パキスタン、ビルマ、セイロンなどが相ついで独立しました。
アメリカ合衆国やソ連の力が強まり、その後フランスや西ドイツを中心とするEC諸国の力も強まったため、かつての大国イギリスも、これまでの生き方を大きく変えねばならなくなりました。1973年にヨーロッパ共同体(EC)に加入し、西欧諸国と連帯しながら経済発展に力を入れつつあるのもそのあらわれです。
イギリス人の生活は保守的だといわれています。朝食の献立から、起床時間、出勤時間など毎週同じスケジュールがくりかえされます。紳士の服装も100年前とほとんど変りません。しかし、保守に固まっているかにみえる反面、新局面を開かなくてはならない時には、時代を先どりし、ダイナミックな前進をみせるのもイギリス人です。
「ゆりかごから墓場まで」 といわれる完備した福祉国家の建設、ミニスカートやビートルズに代表されるポップスなどの生活文化革命、イギリス初の女性党首サッチャーなど、その例はいくつもあります。「ジョンブル」(ブルドッグ) といわれるように、一度かみついたらちょっとやそっとでは離さない不屈の精神の復活も間近いことでしょう。
隣りの国アイルランドは、「みどりの国」と呼ばれるように、樹木がよく茂り、酪農と水産業がさかんな国です。イギリス人とは、人種も、生活習慣もちがい、宗教も違います(イギリスの英国教会に対し、アイルランドはカトリック)。18世紀から、イギリスの支配からのがれようと独立運動をはじめ、1949年、長く苦しい運動の末に独立をかちとりました。

補足事項
イギリスがEC(ヨーロッパ共同体)に加入したのは1973年、1993年にEU(ヨーロッパ連合)になってからも、中心メンバーとして指導的役割をになっています。ただし他のメンバーの通貨が、2002年にユーロに完全に切り替わったのに対し、イギリスの通貨はポンドのままです。

こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」29

● 過剰な期待や干渉をしない

いまの小学生たちには、きまって1クラスに5人や6人の弱気な子がいるといわれます。それも、かなり勉強はよくできるのに、健康面でもなにも異常はないのに、いつまでも弱気な子がいるといいます。そして、その原因を少しさぐっていくと、教育ママの存在にぶつかることが少なくないようです。つまり、母親の、わが子への過剰な干渉や期待が、いつのまにか、子どもを弱気にしてしまっているというのです。
子どもの成績はけっして悪くはない。しかし母親からは、つねに、もっとよい成績を要求され、「○○ちゃんを見なさい、あんなによくできるじゃないの。あなた、はずかしくないの」 などと叱責される。また、日常生活のなかで、つねに 「こうするのよ」 「こうしなきゃダメよ」 「そんなことじゃダメじゃないの」 などと、言われつづける。問題はここにありそうです。
子どもは、母親の期待に応えることができないでいるうちに、いつも、 不満足感や不安感がつきまとうようになり、それが、劣等感にもなって弱気をひきおこすのです。
したがって、弱気になった子どもへは、過剰な親の期待感を捨てて、子どもを解放してあげ、のびのびした心をとりもどさせることです。これは、けっして進学戦争からの脱落や落伍ではありません。ゆとりの回復です。
とにかく、なんとなく劣等感を抱いたまま、また、自己不信のまま成長していったら、こんなみじめなことはありません。心の安定こそが、ほんとうの力を生みだしていくのですから。

先週末より、「Growth Compass」(成長の羅針盤)というサイトがオープンしました。サイトのねらいは、次の通りです。
「子どもたちの成長の過程で、不安や、疑問が生まれ、路頭に迷うこともあるかと思います。子育てに奮闘するお父さん・お母さんのために、育児に関わるお悩みに、さまざまな角度からお応えし、羅針盤のように導いていく、各分野の専門家による、教育専門のコラムサイトです。」

これも、いずみ書房の新IT戦略の一環として構想したもので、昨年11月の第1回目は、私が取材されました。多分にテスト的な役割だったようですが、専門のインタビュアーとプロカメラマンによる撮影で、しっかりまとまったものができた感があります。
第2回目は、「NHK英語であそぼ」でおなじみのエリック・ジェイコブセン氏、第3回は「ヘンリーおじさんの英語で子育てができる本」などで人気のヘンリー・ドレナン氏、第4回は、明日(3月20日)から東京国立博物館で公開される「ダ・ビンチ展」開催まで裏でご苦労された美術評論家の藤ひさし氏を取材した分を公開しています。今後も月1回分を追加してより充実したサイトにしていく計画です。ぜひ、のぞいてみてください。

先週につづき、今週印象に残った事柄をつづってみます。

● 花さか爺さん

作家五木寛之氏のロングセラーに「生きるヒント」という全5巻のシリーズがあります。氏は、私よりちょうど10歳年上で誕生月も同じ、このシリーズを執筆したのが現在の私の年齢に近いこと、1巻に12章、全60章からなっていて1章は400字詰原稿用紙20枚程度、10分ほどで読める分量もほどよい感じがして、この2、3週間、興味深く愛読しています。このシリーズの3巻目の第1章「楽しむ」に、マンガ「フクちゃん」の作者として有名な横山隆一氏(1909-2001)のことが出てきます。横山氏が当時85歳だったにもかかわらず、好奇心といたずら心にあふれているところにとても共鳴するものがあります。五木氏もそういう生き方にあこがれをもっていたそうで、「日々を楽しく生きる天才」と表現し、横山氏から直接聞いたという次の話が紹介されています。
[以前、鎌倉にある自宅から駅まで歩くあいだが退屈なので、何か面白いものがないかと思っていたとき、いいアイディアが浮かんだ。花の種をいろいろ買ってきてポケットに入れる。駅への行きかえり、道の脇の立派なお屋敷の庭に、ポケットの種をまく。すると、りっぱな庭から、マツバボタンやヒマワリなどいろいろな草がニョキニョキはえて、やがてとてもきれいな花を咲かせた。まるで花咲か爺さんになったような気分だった……]と。
「花盗人は罪を問われない、などと平気で他人の庭の枝を折る人がいます。しかし、おなじことなら、勝手に花を咲かせるほうが風流なんじゃないでしょうか。どんな場面にも楽しみを自分でみつけだそうという横山さんの姿勢に、思わず笑いながらも感じ入ってしまうのです。」
私も、この章を読んでしばらく、楽しい気分になったものでした。「はなさかじじい」は日本の代表的な昔話のひとつですが、おそらく、昔にもこんな風流で愉快な爺さんがいたのでしょう。その行為を少し誇張して伝える人がいて「はなさかじじい」の原話が作られ、それが長い時代を生きぬいて日本を代表する民話として生き残ったに違いありません。

● 「1円の中古本」が出品される理由

ネットで本を購入することが多くなりました。特に愛用しているのが「アマゾン」ですが、1年ほど前から「マーケットプレイス」という中古品も扱うようになって、最近、お得意さんになりつつあります。何といっても、ほしい本を検索して、購入ボタンをクリックするだけで届けてくれるのですから便利なものです。上に記した五木寛之氏の「生きるヒント」の1巻目は書店で購入(角川文庫・定価420円)。2巻目は書店になかったため、近くのブックオフで購入(105円)。3巻目は、ネットのアマゾンで検索したら、「マーケットプレイス」で1円と表示されているではありませんか。しかも、最安値1円の出品者が10人以上もいます。なぜこんなことが可能なのでしょうか。購入者は送料340円を負担するので、341円をカード会社から引き落とされます。出品者はアマゾンから送料340円がもらえますが、手数料として100円プラス売価の15パーセントを差し引かれます。からくりは送料にあるようです。340円は郵便で出した場合ですが、今や宅配によるメール便の時代であるため、100円前後で届けてくれるからなのでしょう。それにしても、封筒、納品書、梱包その他雑費がかかることを考えれば、ビジネスとして成り立つものなのだろうかとの疑問は消えません。

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